孫正義の未来を予想する ~ 個人的な希望も込めて

西 和彦

ソフトバンクのスプリント買収が本決まりである。孫さんは売り上げ5兆円の企業グループを作るために4兆円の借金をしたことになる。人生の大勝負である。私事で恐縮であるが、私はアスキーの売り上げが連結で550億円のときに、450億円の借り入れとその個人保証をしていた。私の器はそこまでだったのである。彼はその100倍である。私は本屋であってパソコンのエンジニアで、学校の教員だけど、孫さんは私のビジネスドメインを高速で駆け抜けて、携帯電話ビジネスで花を咲かせたのである。


アメリカの次はヨーロッパの大きな電話会社(おそらくボーダフォン本体? かドイツテレコム?)を買い、その次は中国かインドの会社を買うのだろうか。世界規模で10兆円の会社を作るのであろうか。ほとんどの人はこういうシナリオを予想する。孫さん本人も、恐らくそう考えているのであろう。

私の提案はまったく反対のことである。

「孫さん、会社を大きくすることは止めて、会社を売ることを考えたらどうか」というのである。孫さんのお友達のゴールドマン・サックスに頼んで、孫さんの持つソフトバンクの株を売ってくれ、というお願いをするのだ。そうすると、アメリカと日本を込みで買う会社はおそらくないであろう。米スプリントをちゃんとリストラすると、仕上がりの企業価値は6兆円から10兆円になるであろう。そんな会社を買える企業はない。国家なら買えるが、中国やロシアが買うと言えばアメリカは許さない。残された可能性は、日本とアメリカなど国ごとに分割で売るということであろう。アメリカはディッシュのような会社が買うだろう。日本はドコモとKDDIにオークションすればよい。KDDIが買えば、ドコモより大きな会社ができる。

マイクロソフトから引退したビル・ゲイツがビル・メリンダ・ゲイツ財団を作って慈善事業に転換したことの裏には、マイクロソフトの株式の売却がある。手塩に掛けた会社から、まだまだやれるのに引退する決心をしたと言うことを私は大きく評価する。株を売って、その資金を投資ではなく、寄付する。この慈善事業を始めた頃には、ほんとかなと半信半疑だった世界も、いまではゲイツ財団は世界で最も尊敬される慈善団体の一つであると認めている。

ソフトバンクを売却して孫さんの利益がいくらになるのかというと、恐らく現金が5兆円ぐらい残るのであろう。ビル・ゲイツの手持ち資金は7兆円なので、もう少しで追いつく。そして、その5兆円を孫さんが慈善事業に使うと言ったら、孫さんを嫌いな人たちもビックリするに違いない。尊敬するに違いない。孫さんは東北に私財を100億円すでに寄付されている。孫さんが借金でない自分のカネで、ビジネスを超えたスケールの大きなことをやると言うことになったら、経済だけでなく政治も、日本だけでなく、アメリカも中国も韓国もヨーロッパにも影響のある立場になるであろう。TIMEやNewsWeekの年男にも選ばれるであろう。300年続く「孫帝国」を創ると言っておられるようだが、孫さん一代で築いた企業は売却して他の人に経営して貰って、儲けたお金を一代で使い切るという選択もあってもいいのではないかと思う。

西 和彦
アスキー 創業者・元社長