「第3次石油危機」は来るの?

2013年08月23日 15:25

小学生のみなさんは、社会科で石油危機という言葉ぐらいは聞いたことがあると思いますが、起こったのは40年前だから、みなさんのお父さん・お母さんの生まれたころです。当時は日本のエネルギー源のほとんどは石油でした。値段も1バレル(大きな石油缶1本分)3ドルと安かったので、発電もほとんど石油火力でした。


ところが1973年に第4次中東戦争が始まって、OPEC(石油輸出国機構)が原油の値段を一挙に1バレル11ドル以上に上げたので、世界中が大騒ぎになりました。さらに1979年のイラン革命のあとは40ドル以上になり、エネルギーをたくさん使う重厚長大産業はやっていけなくなりました。特に電力を大量に使うアルミ精錬は、日本から姿を消しました。

世の中もパニックになり、石油と関係のないトイレットペーパーや洗剤が品不足になり、買い占めが起こりました。原油の値上がりそのものは物価指数の中では数%だったのですが、こういうインフレ予想で買い占めが起こると品不足になり、それがさらにインフレを呼ぶ・・・という悪循環になって、73年だけで25%も物価が上がり、狂乱物価と呼ばれました。

だから当時は、石油の値上がりがインフレの原因だと思われていたのですが、実はその前からインフレの気配がありました。当時は田中角栄首相のもとで「日本列島改造論」と称して大型の公共事業が発注され、また1971年の「ニクソンショック」で円の為替レートが上がったため、わざとインフレにして円安にし、輸出産業を救済しようという調整インフレのために、日銀は図のように4%まで公定歩合(今の政策金利のようなもの)を下げていたのです。

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石油危機の前後の公定歩合の推移(日銀調べ)

このような金余りが続いていたため、インフレに火がつくと、公定歩合を9%まで上げても効果がなく、20%以上のインフレが続きました。これに対して1979年の第2次石油危機のときは田中首相は退陣しており、日銀が早めに公定歩合を上げたため、物価上昇率は8%程度ですみました。要するに「狂乱物価」の原因はOPECではなく、田中内閣のインフレ政策だったのです。

そして今、第3次石油危機が近づいています。イランは北部に「原発」と称して核兵器の製造設備を建設しており、プルトニウムの濃縮を行なっています。これはイスラエルに対する核兵器だと思われるので、イスラエルのネタニヤフ首相は、イランが核兵器の製造をやめなければこの核施設を爆撃すると、昨年の国連総会で演説しました。

これに対してイランのロウハニ大統領は「もしイスラエルが爆撃したら、ホルムズ海峡を機雷封鎖する」と表明しています。ホルムズ海峡というのは、図のようにペルシャ湾の入口の30kmぐらいしかない狭い入口で、ここを封鎖されると、日本に輸入される原油の80%、LNG(液化天然ガス)の20%が止まります。


石油は備蓄があるのですぐにはなくなりませんが、LNGは備蓄がないので、特に電力の4割をLNGに頼っている中部電力では大規模停電は避けられないでしょう。また原油価格は何倍にも上がり、70年代のようなインフレに火がつくおそれが強い。

いま日銀の発行している日銀券(マネタリーベース)は200兆円近く、70年代の数十倍です。今はゼロ金利なので何も起きていませんが、インフレで9%も金利がつくようになると、このお金が銀行貸し出しになって世の中に出ていきます。この倍率(貨幣乗数)は12倍ぐらいといわれるので、2400兆円ぐらいの資金(マネーストック)が世の中に出回るでしょう。

日本の名目GDPは500兆円だから、2400÷500=4.8なので、5倍近いインフレになる可能性があります。こういうとき「金利を上げれば止まる」という人がいますが、70年代でもわかるように、お金がジャブジャブに余っているときは、金利を9%に上げてもインフレは止まらないのです。

物価が5倍になると、年金や生活保護をもらっている人の収入は実質的に1/5になってしまいます。たとえば牛丼は1000円を超え、タクシーは初乗り3500円ぐらいになるので、収入は同じでも貧乏になるのです。これで借金している財政は助かるように思えますが、実は国債の長期金利も上がるので利払いが増え、合計すると財政負担はむしろ増えます。

ただ1ドル=500円ぐらいになるので、輸出産業は息を吹き返すでしょう。若者の年金負担も減り、世代間格差もなくなるでしょう。政府は止めたままの原発を再稼働するので、エネルギーの輸入が減ってインフレも収まれば、少なくとも小学生のみなさんにとっては第3次石油危機は悪くないかもしれません。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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