早急な化学兵器の破棄は可能か --- 長谷川 良

2013年09月15日 11:51

スイスのジュネーブのホテルで9月12日からケリー米国務長官とロシアのラブロフ外相がシリアの内戦問題で緊急協議を開いた。テーマはアサド政権が保有する化学兵器を国際管理下に置くというロシア側の提案について、具体的な行動計画を話し合うことだった。

オバマ米大統領はシリアの化学兵器の破棄をアサド政権に強いることができれば、軍事介入は不必要となる上、大統領としての面子もある程度保つ事ができる。一方、ロシアにとっては中東最後の同盟国であり、ロシア製武器の最大買い手のアサド政権を米国の軍事介入から守り、政権を維持させる事が可能となるかもしれない。米ロ両国首脳の思惑が一致したのだろう。


ロシアの提案には問題は政治的側面だけではなく、技術的にも多くの難問を抱えている。1000トン以上と推定されるシリア保有の化学兵器をどのように国際監視下に置くかという点だ。ちなみに、独連邦情報局(BND)によると、700トンはサリン、後は、マスタード・ガスとVXガスという。

アサド政権は世界有数の化学兵器保有国だ。その化学兵器はダマスカス郊外だけに保管されているわけでもない。反体制グループが占領している地域にも化学兵器が存在する可能性は排除できない。西側情報機関筋によると、アサド政権は国内50箇所以上に化学兵器を分散して保管しているという。

先ず、アサド政権保有の化学兵器保管地リストが必要となる。保管地が判明すれば、次の課題はどのようにして破棄するかだ。シリア国内には化学兵器を安全に破棄できる設備がない(高温に耐える施設が必要)。

とすれば、国外から化学兵器専門家を派遣して、破棄させるか、それとも化学兵器を慎重に国外に運び出すかの選択肢しかない。前者の場合、平和時でも大変な作業だが、シリアは目下内戦下にある。国際専門家、査察員の安全保障問題も出てくる。反政府側に潜伏するアルカイダ関係者が化学査察官を拉致するなど妨害する危険性も排除できない。

化学査察官は化学兵器の製造を停止させ、保管されていた化学兵器を破棄しなければならない。その上、アサド政権の保管する化学兵器を全て破棄するためには巨額のコストがかかる。その経費をどのように賄うか、といった新しい問題も生じてくる。

国外に化学兵器を安全に運び出すとしても、どの国が危険な化学兵器を受け入れ、それを破棄するだろうか。アサド政権が保管する化学兵器を全て国際監視下に置いたかどうか、検証する手段もない。保管地リストに含まれない秘密の保管地があるかもしれない。

以上の諸問題を完全にクリアするためには時間と忍耐が必要だ。最善の道はアサド政権の化学兵器を国際監視下に置く作業期間、アサド政権と反体制派間で休戦が実現することだ。

ケリー国務長官は、ロシア外相と今月末に再度協議するが、化学兵器の完全破棄には休戦条約の早急な締結が不可欠ということで米ロが一致したはずだ。休戦条約を実現するためには、関係国・グループ間の会議を開催しなければならない。

ロシアの提案がアサド側の時間稼ぎとなることを懸念するケリー米長官は、化学兵器廃棄の手順について、「包括的、検証可能で信頼性があり、時宜を得たもの」という条件を挙げている。ちなみに、アサド大統領は12日、化学兵器禁止条約の加盟を申請することを正式に表明している。

化学兵器破棄と休戦協定の締結という2つの課題を短期間に履行しなければならない。米国務長官とロシア外相の協議が成功し、先述した課題を克服できれば、合意内容を明確に明記した国連安保理決議案の採択が次のステップだ。オバマ大統領のジェィ・カーニー報道官も11日、「化学兵器の破棄にはかなりの時間が必要である事は分かっている」と述べている。

10万人以上の犠牲者を出し、数百万人の難民と国内難民を生み出したシリア内戦は大きな分岐点を迎えている。外交プロセスが失敗すれば、米国の軍事介入は避けられず、更なる犠牲者が生まれてくることは必至だ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年9月15日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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