どん底を味わっていない人の「私の履歴書」はナゼつまらないのか? --- 内藤 忍

アゴラ

日経新聞の名物コーナーに「私の履歴書」というのがあります。各界の著名人が30回の連載で自身の人生を振り返るという読み物です。経営者や学者、それに女優や政治家にアーティストまで様々な人が登場するので、楽しみにしているのですが、正直面白い人とあまり面白くない人に分かれます。

自分の興味のある分野なのかどうかも関係するとは思います。しかし、読みたいと思うか思わないかの一番大きな違いは、私の場合「どん底をどれだけ経験しているか」です。


登場している人は、全員何らかの偉大なことを成し遂げた人ですが、その過程で苦労をしている人ほど、文章から滲み出る人間としての「味」を感じます。

親の七光りや組織をバックに、順風満帆で大した苦労もしないで、成功した人の自慢話を読んでいても白けてしまい、途中から読まなくなってしまいます。

例えば、子供の頃から成績優秀で、有名私立高校を出て、現役で東大法学部を卒業。官僚になって、次官になり、天下りして……というような人生は、隙のない完璧なものかもしれませんが、そんな人には魅力を感じません。

子供の頃、親から教えられたのは、失敗の無い安定した人生を目指せということでした。しかし、人生で大切なことが学べるのは、失敗したり挫折したりしたときこそではないでしょうか。

どん底を経験したり、大きな挫折を味わうことは、本人にとっては大きなダメージであり、できればそんな過去は味わいたくなかったというのが本音でしょう。しかし、後から振り返ってみると、そんな経験こそが、その人の人間としての幅を広げ、魅力を高めているように思うのです。

わざと失敗する必要はありません。しかし、懸命に努力していてもうまくいなかい時はあります。もしそんな機会があったら、それは自分が学び成長できるチャンスです。

私はピンチに立った時「逆境でこそ、自分の真価が問われる」と自分に問いかけます。最悪の状態になった時こそ、自分の力量が問われ、そこを乗り切ることで成長することができるチャンスだと考えるのです。ほとんどのピンチは、数年あるいは数十年経って振り返れば、当時よりも客観的に捉えられ、受け入れらるようになります。

完璧な人生ではなく、深みのある人生。
失敗しない人生ではなく、失敗を乗り越えてきた人生。

そんな人生を歩んでいる人に魅力を感じ、自分もそうなりたいと憧れます。

思い通りにいかない時、回り道をしているように感じるかもしれません。でも、

「人生には無駄なものは1つも無い」

のです。

編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2013年11月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。