「検定教科書」ではグローバル人材は育たない

2013年11月14日 07:47

日本は教科書の検定を国の専権事項としている唯一の先進国だが、教科書と国家の関係は、国民を「国家の資源」と考える東北アジア諸国と、主権在民思想の欧米諸国とでは大きく異なり、一概に国の教科書検定を否定する事は出来ない。

日本を含む東北アジアの国では、変化と進歩を続ける世界情勢や科学技術の中から、国家の発展に重要だと思う物を国が選択して教科書に盛り込むため、必然的に「記憶」中心の教育になり、教科書も毎年更新し無料給付する制度を採用している。


このような、知識中心の教育が経済成長に著しく貢献し、東北アジアの経済発展に寄与した事は否定できず、その点では国家の教科書への介入は成功したと言って良い。

一方、恒常性の高い普遍性や理念教育に力点を置く欧米では、教科書を毎年改定する必要もないため、費用効率の高い無料貸与制を採用し、数年間(米国の場合は5~9年)にわたり同じ教科書を使用している。

その為もあり、欧米では知識量では東北アジアの子供に劣っても、物事を良く考える子供が育つ傾向にある。

この点について、サルトルはこんな主旨の事を書いている。

「伝統、国家、人種、本能といった非理性的な事をあまり強調する事には弊害があり、『理性への情熱』を高める教育をすべきである。何故なら、理性が存在するならばフランス的真実とか、ドイツ的真実がある訳はなく、すべての人間が同意できる普遍的真理を発見す るのが、最もよい人間だと言う事を理解するからだ」。

教科書の検定だけでなく、各学校で使用する教科書の採択権限のあり方でも、日本は欧米と対極の関係にある。

多様な価値観を重んずる欧米では、教科書の選択は殆ど学校又は教師に任せており、教科書の選択に口を出している国は見当たらない。

一方、国民を国家の資源と考える我が国では、文科省が「カリキュラム」「検定基準」「検定」「教科書採択」等全てを指導監督する事が「資源の品質管理」に欠かせないと言う立場を崩さない。

教育のあり方について日本とこれだけ考えの違う欧米諸国は、八重山教科書問題の様に、検定に合格した教科書の中から誰が採択するかと言う「教育」とは無関係の問題で揉めるなどは、到底理解できない。

安倍総理の「知識偏重教育」の是正方針には賛成だが、その目的が、日本の教育観を東北アジア的な地方性の強いものから、普遍性を重視する近代教育観に転換する事でなければ何の意味もない。

これが「グローバル人材」の出発点であろう。

だとすれば、何を、何の為に、誰が教えるか?と言う根本問題を考える事が先である。言い換えると、何を教えるか? と言うもっとも大切な事を文科省が決めて良いのか? と言う問題について国民的合意を得る努力が必要となる。

出来の悪い私は、他人以上に多くの試験を受けて来たが、その中で最も印象に残った試験が、今から半世紀以上も前に受けた、あるアメリカの有名大学の全額給費留学生試験の筆記試験であった。

日本に未着の某雑誌の最新号に載った、ウォルター・リップマンの小論文を読み上げた駐日米国大使館のスタッフから「(1)筆者の言葉をなるべく忠実に使って、論文の要約をせよ。(2)自分の言葉と知識を駆使して、リップマン論文に評論を加えよ」と言う二問の試験問題を出され、「このようなテストで訓練されているアメリカの学生にはとても敵わない」と言う想いが脳裏を走った事を今でも覚えている。

一夜漬けは勿論、試験の為の勉強も役に立たず、常に物事を整理、分析し、理性的な結論を導き出す訓練が物を言うこのような試験問題に「説得力のある」回答を出せる人材こそ、「グローバル」に通用する人材だとすれば、「国や仕事に役に立つ事を覚えよう。その結果を試験で測ろう」と言う日本の教育の方向を変えない限り、いくら「TOEFLの導入」などの手段の工夫をしても、日本の「グローバル人材」養成の道は険しい。

ところが日本では最近、「道徳」まで「国の検定教科書」で教えようとする動きがあると言う。

「道徳」は知識でもなければ、試験で測れるものでもない。

「心」に浸透してはじめて生きる「道徳」は、「たしなみ」や「教養」に近いもので、どこの国でも宗教の教えや家庭の「しつけ」を中心に、永い時間を掛けて養っている。

日本はもともと宗教心の薄い事に加え、家庭の崩壊で「しつけ」が出来ないと言うのなら、 技術と共に「心」を磨く柔道、剣道、唐手道、相撲道、書道、茶道、華道など、数ある日本独特の「道」の中から自分の好みに合った「道」を生徒に選択させ、その「道」を極めさせるほうが、文科省の役人が考える「道徳カリキュラム」より遙かに優れている。

「道徳教育」まで「検定教科書」に頼る「検定教科書依存症」は余りにも「異常」で、これでは「グローバル」人材の養成は無理である。

2013年11月14日
北村 隆司

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