再稼動って何?

2014年01月09日 01:31

日経新聞によると、関西電力の高浜原発を視察した原子力規制委員会の委員が「今夏の再稼働は不可能ではない」とコメントしたそうです。再稼動というのは、定期検査の終わった原発を運転することです。小学生のみなさんは「規制委員会が原発の運転を認可するんだ」と思うでしょうが、実はそうではないのです。


規制委員会は、原子炉等規制法にもとづいて原発の安全審査をしています。今回は安全基準が強化されたので、新たに設置した設備の審査をしていますが、そのとき原発を止めろとは法律のどこにも書いてありません。安全審査は運転しながらすればいいのです。規制委員会には運転を認可する権限はありません

これは建築基準法と同じで、耐震基準がきびしくなったら新しい建物はその基準で建てないといけませんが、古い建物は人が住むなということにはなりません。耐震性を強化することはありますが、その工事が終わるまで住めないということもありません。

そもそも運転を停止しろという命令も出ていません。原発が止まったのは、2011年5月に菅首相が「浜岡原発を止めてください」とお願いしたのが始まりです。そのときは「法的根拠はない」と菅さんもいっていました。中部電力が彼のお願いをきく形で、原発を止めたのです。

このとき他の原発は動いていましたが、そのあと玄海原発で定期検査のあと運転しようとしたのを菅さんが止めました。そのままなし崩しにすべての原発が止まったままです。これを止めろという命令は、法律はおろか閣議決定も出ていません。そんな命令を出す法的根拠がないからです。

スリーマイル島やチェルノブイリの原発事故でも、事故を起こした原発は止めましたが、他の原発は止めていません。「脱原発」を決めたドイツでも、すべての原発は動いています。それを耐用年限のきたものから廃炉にしようというだけです。日本のやっていることは、世界的にみても非常識です。

「原発は特別に危ないんだから、法律より安全のほうが大事じゃないの?」というのは間違いです。原発は特別に危険ではありません。放射能で死んだ人はいません。危険というなら、1万8000人も死んだ津波のほうがはるかに危険ですが、被災者はもとの家に帰宅しています。それは大地震がもう一度おこる確率が非常に低いからです。原発事故のリスクも、確率を考えればゼロに近い。

日本は法治国家なので、原発のような大事なものの扱いは法律で決めないといけません。事故のあと法律を改正しましたが、その法律にも停止命令の規定はありません。規制委員会は安全基準をつくって審査するだけで、運転を許可するのは経済産業省です。定期検査は終わっているので、いつでも運転できます。

停止命令が出せる場合もあります。たとえばボーイング787のバッテリーが火を噴いた事件では、多くの国で787の運行停止命令が出されました、それでも誰も「飛行機の安全神話が崩壊した」とか「検査が終わっても飛ばすな」とはいいません。それは飛行機が飛ばないと、困ることが明らかだからです。

ところが原発は、787でトラブルが起きたら日本中の飛行機を3年近く止めるような状態です。反原発派の人たちは「電力は足りている」といっていますが、彼らは「飛行機がなくても新幹線で足りる」とはいわないのでしょうか。つまり787の点検が終わったら飛んでいるのに原発が動かないのは、損害が見えにくいというだけの違いなのです。

しかし実際には、787より原発の損害のほうがはるかに大きい。事故後、原発を止めて火力を動かしたおかげで、電力会社の燃料費は9兆円以上も増えました。毎年3兆円、消費税の1%以上の「税金」がかかっているのと同じです。安倍首相は「アベノミクスでデフレ脱却」などと浮かれていますが、こういう悪いインフレは確実に起こっています。去年は貿易赤字も史上最大になりました。

安倍さんは「安全審査に合格するまで再稼動しない」と言っていますが、安全審査と運転は関係ありません。審査が終わって運転できるなら今でもできるし、今できないことは審査が終わってもできません。朝日新聞は「審査が終わっても運転するな」と騒ぐでしょう。安倍さんは靖国参拝なんてつまらないことに決断力を示すより、エネルギー問題にもう少し頭を使ってはどうでしょうか。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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