日中間の軍事衝突は回避できるか --- 長谷川 良

2014年01月25日 18:44

第一次世界大戦が勃発して今年で100年目を迎えるが、スイスで開催中の世界経済フォーラム(通称ダボス会議)で安倍晋三首相が外国メディアの日中関係についての質問に答え、「「第一次世界大戦前の英独関係に似ている」と説明したという。

安倍首相は「英独両国は緊密な経済関係があったが衝突した。日中両国で軍事衝突が起きないようにしなければならない」と付け加えている。首相の発言は最後まで聞けば問題ないが、一部のメディアはいつものように拡大解釈して報じている。 


現在の日中関係と大戦前の英独関係の類似性を指摘した安倍首相の発言内容を考える前に、第一時世界大戦は回避できなかったのかを少し考えてみた。 

第一次世界大戦前の欧州指導者の間では、「戦争はもはや回避できない」といった雰囲気があったことは事実だ。エドワード・グレイ英外相は当時、「どの人間もそれを(対独戦争)阻止できない」と戦争宿命論を主張し、英国の参戦を支持したことはよく知られている。

ハーバード大学の国際政治学者ジョセフ・ナイ教授はオーストリア日刊紙プレッセ(20日付)に寄稿し、そこで「第一次世界大戦前、多くの政治家は戦争は回避できないと考えていた。戦争宿命論が社会的ダーウィ二ズムによって強められた時代だった」と述べている。

第一次世界大戦勃発の結果、約2000万人が犠牲となった。ドイツ、ロシア、オーストリア・ハンガリー帝国は弱体、崩壊し、オスマン・トルコ帝国は消滅、1917年のロシア革命で共産主義が台頭する一方、米国と日本が世界の政治の檜舞台で上がってきた。そして、ファシズムが台頭してきた。いずれにしても、第一次大戦後、世界の情勢は大きく変わったわけだ。

ところで、政治学者の間では、現在の日中関係ではなく、米中関係が第一次世界大戦前の政情と類似している、と懸念する声がある。それに対し、ナイ教授は「米国と中国はエネルギー、地球温暖化問題、金融安定などグローバル問題を抱えているから、最終的には協調路線を強いられるだろう。1914年当時、ドイツは英国の国力に接近していたが、米国の国力は中国のそれを大きく引き離している。当分の間、その格差は縮まらないだろう」とみている。
 
ちなみに、ナイ教授はキューバ危機(1962年10月)を例に挙げて、「米ソ両国は戦争となれば(核兵器が投入され)莫大な犠牲が出ると懸念し、最終的には軍事衝突を回避した。1914年の時、そのような懸念があったならば、戦争を回避できたかもしれない」と述べている。一種の核兵器の戦争防止効果論だ。

戦争不可避論者、宿命論者はジャン・カルヴァンの完全予定説を想起させるうえ、同じ過ちを犯している。人間には自由意思があり、戦争を回避できる選択権を有しているからだ。

ナイ教授は「第一次世界大戦は決して不可避ではなかった。政治的誤算はいつでも生じるが、危機は正しい決定で最小限に制限できる」と主張している。

安倍首相が指摘したように、日中両国の政治情勢は、1914年前の英独関係と類似している点もあるが、体制や国際情勢はまったく異なっている。ただし、ナイ教授が警告するように、政治的誤算はどの時代でも生じる危険性がある。

日中間で軍事衝突が発生すれば、膨大な犠牲が出ることは明らかだ。私たちは21世紀に生きている。前世紀の2つの大戦から学ばなければならない。政治家の責任は大きい。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年1月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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