毎年この季節になると「南京大虐殺」という話がマスコミをにぎわします。今年も櫻井よしこさんが産経新聞に
「南京大虐殺」はわが国の研究者らによってなかったことが証明済みだ。にもかかわらず中国は事実を曲げ日本への憎しみをかき立てる。
と書いて、話題を呼んでいますが、これは事実に反します。「南京大虐殺はなかったと証明した研究者」は(少なくとも歴史学界では)存在しません。この言葉がきわめて政治的な含意をもつため、研究者は南京事件と呼ぶのが普通です。
「南京事件」は通常の戦闘行為だった
これは日中戦争で日本軍が国民党政府のあった南京を攻撃して陥落させたとき、軍民に多くの犠牲者が出た事件です。これは東京裁判で出てきた話で、指揮官だった松井石根大将が死刑になりました。
当時の日本軍が中国兵を殺したのは事実ですが、これは通常の戦闘でした。日本軍の入城で中国軍は城外に逃げたのですが、私服を着た便衣兵が多かったので、日本軍が民間人を殺したことは事実です。
しかしこれを大虐殺と呼ぶのは中国政府だけです。「虐殺」の定義にもよりますが、通常これは非戦闘員を殺すことを意味し、戦闘行為を虐殺とはいいません(そんなこといったら戦争は虐殺だらけ)。中国は「30万人が虐殺された」と主張していますが、当時の南京市の人口が25万人だったのでこれは嘘です。せいぜい軍民で数万人というのが多くの研究者の推定です。

中国の南京大虐殺祈念式典
南京入城は「侵略」である
それより問題は、なぜ日本軍が南京に入城したのかということです。いうまでもなく、南京は中国の領土です。そこに日本軍が入ることは、明らかに国際法違反の侵略です。なぜか櫻井さんを初めとする右派の人々はこの事実に口をぬぐい、蒋介石の逃げた重慶の爆撃(これも国際法違反の無差別爆撃)も黙認しています。
当時の満州は日本の支配下でしたが、万里の長城の南は国民党政府の領土で、共産党との内戦が続いていました。日本政府の不拡大方針に反して、満州にいた関東軍が勝手に南下しはじめたのです。
満州事変は国際法上の侵略で、日中戦争も中国の領土を侵略するものでした。それ以降に日本軍が中国戦線で殺した人数は、軍民あわせて1000万人近い。1937年に起こった盧溝橋事件は小規模な衝突でしたが、それをきっかけに日本軍は全面戦争を始め、国民党政府の首都だった南京に入城しました。
日本軍は中国共産党の勝利を助けた恩人
日中戦争は正式の宣戦布告がなかったので「支那事変」と呼ばれ、陸軍は「数ヶ月で終わる」と言いましたが、戦争は終わらなかった。1938年に近衛文麿内閣は「国民政府を対手とせず」という声明を出し、汪兆銘のかいらい政権を上海につくりましたが、戦争は泥沼化しました。
そして石油が足りなくなったので、ベトナムやインドネシアに戦線を拡大し、それに対する報復としてアメリカが石油の日本への輸出を止めたので、今度はアメリカに対して戦争を起こす…というように日本軍は行き当たりばったりに戦争を拡大しました。
問題は大虐殺かどうかではなく、日本軍が無計画に中国に戦線を広げたことです。おかげで内戦が長期化して国民党が消耗し、結果的には共産党が中国を支配しました。のちに毛沢東は「共産党が政権を取れたのは日本軍のおかげだ」と感謝しました。共産党を助けた日中戦争を、右翼のみなさんが「正しい戦争だった」というのは皮肉です。








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