女たちが無頼化、結婚が嗜好品化する時代に 『ゼクシイ』のCMの意義を考える

2014年05月21日 07:07

リクルートの『ゼクシイ』が新CMを発表した。5月22日(木)より放映されるという。今年は、実にシンプルかつ贅沢な作りだった。しかし、女たちが無頼化、結婚が嗜好品化すると言われている時代に、同社のCMに意義はあるのだろうか。



『ゼクシイ』のCMは毎年、話題を提供してきた。昨年は、30人の人気お笑い芸人が登場するCMだった。ちょうど同誌が20周年ということもあり、お金がかかっている感が半端無かった。

永遠の独身(?)黒柳徹子が結婚への想いを語るCM、内田裕也と樹木希林という永遠の別居婚夫婦が結婚の魅力について語るCMなど、常に、話題となる、お金がかかっている感のあるCMが作られてきた。なお、後者は、放送を開始してすぐに、交際中の女性を脅迫し、女性宅に侵入した容疑で内田裕也が逮捕されるというロックな展開があったが、その後、樹木希林が一人で出演するバージョンが作られたのが、懐かしい。

CM楽曲も豪華で、ここ数年は国民的俳優であり、歌手である「ちい兄ちゃん」こと福山雅治が楽曲を提供したし、木村カエラの『バタフライ』など結婚式の新たな定番ソングも生まれたりもしている。


個人的に気になっていたのは、2008年~2009年頃(だと記憶している)に放映されていた、フリーランス風の男性が登場するCMである。女性もごく普通の感じがする。結婚に対する敷居(少なくとも心理的なハードル)を下げることを意識しているように感じる。


そんな風に話題を作ってきた『ゼクシイ』のCMだが、今年のテーマは「プロポーズされる喜び」だ。オーディションにより選ばれた広瀬すずさんが「ゼクシィ7代目CMガール」に決定。リリース文によると、喜び・驚き・感動・ときめきなど、さまざまな「きゅん」とした想いがつまった映像を意図したという。

楽曲は、EXILE ATSUSHIが「Precious Love」という曲を書きおろしている。クリエイティブ・ディレクターは箭内道彦氏だ。EXILEを使うあたり、やはり日本はやはりヤンキー化しているのかと思ったりもするが。要するに豪華な布陣で臨んだということだ。

今年のCMは実にシンプルだが、難易度が高いものだと言える。背景には、何もない。プロポーズされて、それにこたえるという、ただそれだけだ。しかし、映像をご覧頂くとわかるとおり、まさに喜び・驚き・感動・ときめきなどがつまったものだといえる。「これは良顔芸」という感じだろうか。

中でも、プロポーズを受けてからの間、そこで見せる表情は見ものである。

しかし、リクルートにおいても超絶勝ち組媒体、ドル箱商品と言われる『ゼクシイ』はなぜ、ここまでやるのか。そもそも、結婚、恋愛を盛り上げようという気概を感じる。

というのも、結婚はもはや、誰でもするものではない。結婚だけで食べられる時代でもないのだ。

無頼化した女たち
水無田 気流
亜紀書房
2014-02-22



ちょうど、このCMが発表された日に、水無田気流さんをゲストに迎え、飯田泰之先生と『饒舌大陸』というニコ生番組を放送していたのは、奇妙な偶然だ。水無田気流さんの超絶良作品『無頼化した女たち』をもとに、語り合った。例によってお酒を飲みながらの放送で、私が司会としての役割を果たしきれなかった上、番組の放送設定ミスで当初90分の予定だったのが、60分で終了になるなど、トラブルもいっぱいだったが、白熱した番組だった。

なんせ、女性は非正規雇用が過半数である。生涯未婚率も上がっている。「普通の幸せ」はもうこの国にはない。そして、女子のキャリアはクソゲー、無理ゲー化している。

途中で終わってしまったものの、そこまでの視聴者の反応は実に好意的だった。
※なお、7月にまた、水無田気流をお招きし、もう一度放送する。申し訳なかった。

日本女子のやさぐれた現実から考えると、このCMは実に奇妙というか、ファンタジーだとも感じる。女性が無頼化し、結婚が嗜好品化する中、このように、普通にプロポーズされる幸せなんてあるんだろうか。もともと描く必要もないことなのだけど、このCMには別に女性のキャリアも、結婚をめぐる現実もない。

それでも、プロポーズされる喜び、結婚する喜びを描こうとする同社には、魂を感じたりもする。同社の「すべての人生が、素晴らしい。」とか「子供に、夢を託すな。」というCMは気持ち悪くて話題になったけれど、そういう気持ち悪さはない。ただ、「まだ、そこにない、出会い。リクルート」と言われて、やはり手のひらで踊らされている感は半端ないのだけど。

いや、ここは、ちゃんと突っ込んでおこう・・・。

まだ、そこにない、出会い、なんていうけど

そもそも、今の日本女子には、良い出会いが、ないんだよ!

とはいえ、結婚シーンを盛り上げようという気概で取り組んでいることは評価するべきだろう。求人が多い時にCMを多めに流し、いちばん求職者を応援しなければならない時にはCMを流さない、求人広告部門よりはずっと良い。

なお、水無田気流さんのこの本は、日本女子をめぐる現状が痛いほどよくまとまっているので、ぜひ手にとって頂きたい。2009年に出た新書『無頼化する女たち』の増補版なのだが、約6割を追加していて、もはや新しい本と言えるくらいのレベルである。追加されている西森路代氏との対談は神企画である。

このCMを観た後に読むと、より衝撃が増すことだろう。

さて、女性たちには、いや男性たちも含めて、このCMはどう受け入れられるだろうか。激しく傍観することにしよう。

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常見 陽平
千葉商科大学国際教養学部専任講師

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