海水浴場の「命名権」は誰のものか

アゴラ編集部

「サブレ(Sable、eはアクサン・テギュ)」というフランス語は英語の「サンド」つまり「砂」を意味するらしいんだが、まさに砂のようなサクサクとした食感が特徴のビスケットお菓子です。もともと、フランスはノルマンディー地方のカーンという街で生まれたものらしい。カーンといえば第二次世界大戦中、ノルマンディー上陸作戦後に連合軍とドイツ軍が激戦を繰り広げた街です。


で「サブレ」といえば、鎌倉のお土産の定番「鳩サブレー」です。このお菓子、鎌倉のお菓子屋さん「豊島屋」というところが作っている。鎌倉の参道は、住居の基礎部分に使われる葛石を積み上げた「段葛」で有名なんだが、周囲より一段高くなっている参道は、鎌倉幕府ができた時代、水はけが悪くぬかるんでいたため、そう作ったそうです。

その参道、車道が左右交互通行になるあたりに「鳩サブレー」の「豊島屋」の本社があります。並びには鰻の「茅木屋」とか材木店とか甘味処とか鎌倉らしい街並みになっている。「豊島屋」の店構えが、また白暖簾と漆喰っぽい白壁で衒いのない上品なものです。看板は白地に赤文字で「鳩サブレー」とだけ書かれている。

創業は1894(明治27)年です。創業者は久保田久次郎。どうして「豊島屋」というのかといえば、屋号を気に入った創業者がどこぞから譲ってもらったかららしい。「鳩サブレー」ができたのは創業から数年経ったころで、当時、バタ臭いお菓子が受け入れられず、近所に配ったもののイヌのエサにされていたりしたそうです。そのあたりのエピソードは鳩サブレーの生い立ち物語に詳しい。久次郎が生んだ「鳩サブロー」というわけです。

そんな「豊島屋」なんだが、2013年5月に管理費の圧迫などを理由に鎌倉市が売り出した「材木座」「由比ヶ浜」「腰越」三つの海水浴場の命名権を取得しました。年間1200万円で10年間、という契約内容らしい。さてどんな名前にするのか、と思っていたら5月15日、同社が記者会見を開いて「従来そのまま」と発表。ネット上では「『豊島屋』太っ腹」と称賛する声があがっています。

財政難に苦しむ自治体では、公共施設の命名権を販売することがよく行われるようになっています。千葉県習志野市は、野球場やサッカー場の命名権を売り出し、宮崎県の総合運動公園も年間4000万円程度で5年契約の命名権者を募っている。そもそも海水浴場は基本的に国のものであり、その管理を都道府県などの地方自治体に委託しているわけです。海水浴場でのタトゥー露出やクラブ化したライブ、過度の飲酒などが問題になった逗子市でも「ビーチはいったい誰のものか」地元や市民、市議会を巻き込んでの議論になっている。

「豊島屋」の「英断」は最近にない爽やかな話で野暮なことは言いたくないんだが、果たして地方自治体が海水浴場の命名権を販売できるのか、という基本的な疑問は残ります。行政が売り出して買った業者が、地名はやはり「もとのまま」という痛烈な皮肉にも思える。「豊島屋」にとって値段以上の宣伝になったのかもしれず、市民や鎌倉市以外の海水浴場利用者にしても朗報。でも少し恥ずかしい鎌倉市、といったところでしょう。

CURRENT TOPICS
鎌倉市海水浴場命名権事業の愚行──名称変更しなかった豊島屋は素晴らしい


閉鎖性と大衆性の狭間
K Diary
「おもしろさ」の普遍性、といったものについて書いているブログです。狭い範囲の与太話も「おもしろい」んだが、映画や小説などのフィクションでは赤の他人の架空の話を「おもしろがった」りできる。人間というのは、そういう「想像力」を持っているわけで、対象とするこの能力や内容があまりに突飛でも陳腐でもいけません。なるべくたくさんの人に共通の能力で「おもしろがれる」ような内容がいいわけです。身近な内輪の与太話なら普通の人間は普通にできる。難しいのは不特定多数をどれだけ「おもしろがらせる」かどうかです。

Coffee could be key in cutting colon cancer risk
Natural News
発がん性物質については、以前、ある研究者が焦げた食べ物に対する心配を告げた当方にこんなことを言いました。ダンプカーの荷台一台分くらい食べなきゃ大丈夫ですよ、と。放射線の影響にしても、遺伝的な体質や食べ物、喫煙などなど、ほかの要因と区別することは難しい。何か一つの原因で、がんになることを証明するのは大変です。この記事では、コーヒーが大腸がんのリスクを低減させる、と書いているんだが、いったいどれくらい飲んだらいいのか個人差があり過ぎてよくわかりません。1日に2杯半コーヒーを飲んでいる人で顕著にリスクが低くなった、と書いているんだが、コーヒーに含まれているアクリルアミドには、ディーゼルエンジンの排気ガスと同じ程度の発がん性がある、と言われている。どんなものも食べ過ぎたり飲み過ぎたりすれば、やはり体のためには良くない、ということでしょう。

日本最大の嘘によるブロバガンダは野口英世
楽なログ
日本の大学入試の場合、高収入の家庭の子どものほうが有利になる、というのは、もうすっかり常識になっています。経済格差が学歴にも影響するのは自明で、小さい頃から学習塾や家庭教師を十全に与えられた子どもと貧困な家庭の子どもの「学力」に差がつくのは当然でしょう。このブログでは、野口英世というヒトは本当は貧困を克服したのでもなければ研究者としても大成したわけでもない、という話を紹介しています。刻苦勉励は美徳ではあるんだが、貧乏人におかしな幻想を与え、現実を直視させなくするのは良くない、というわけです。どうでもいいけどタイトルは「プロパガンダ(propaganda)」です。

これを探してた! 「iPhone」外付けデータメモリで、もう容量は気にしない
TABROID
スマホなどのデータ、いったい何が圧迫してるのか、といえば、やはり音楽や動画、写真です。日本でも「iTunes Match」が実装されたことだし、クラウドに置いておけばいい、という話もあるんだが、自分の手元に置いておきたい、と考える人も少なくない。この記事で紹介している「iStick」という外部記憶デバイス、なかなか良さそうです。スライドスイッチというアナログっぽいものが付いているのも好感です。


アゴラ編集部:石田 雅彦