前田氏の「東京への人口集中は進む」は、過去20年の総括として納得できるものだ。だが、だからこそ地方都市は、新しい地方回帰の流れを作らなければいけない。東京もそろそろ限界が見えてきている。そこで私は日本の地方都市には、その参考としてヨーロッパの中小都市を見てみることを、ご提案したい。
そもそも従来の東京中心、日本全国均一都市化、製造業頼り、個人の幸せより経済発展優先といった昭和日本の特徴を、これからの日本が延長続ける必要があるかどうか、疑問がある。
現在は、個の確立、会社に頼らない生き方、起業が強く言われる時代だ。地方都市も同様に、それぞれの地域に固有の歴史と気候風土を生かし、個として独自の産業を育て、独自の暮らしやすいコンパクトな街作りを目指せば良いのではないだろうか。
最近のご当地キャラやご当地B級グルメブームには、現代版の地元独自性回帰の流れを感じる。その次のステップに、個性あふれるヨーロッパの地方都市の在り方は、必ず参考になると思う。
特にヨーロッパの地方都市を取り上げる理由は、
・非英語圏 (イギリス以外は)
・先進国価値観を共有している
・地域独自色が強い
・伝統とモダンを上手に融合している
・少子高齢化と老朽化インフラ問題を一足早く経験している
経済事情の良くない国も少なくないが、例えばギリシャ人の多くは気にせずマイペースだ。なにしろ我が先祖のギリシャ文明が現代文明の基礎を築いた誇りがある。だから現在の経済問題など些細な事らしい。スペイン人しかり。イタリア人しかり。
日本の親和性の高いドイツを見ると、ドイツは日本同様、各地域の地域色が大変豊かな国だ。元プロイセンの北ドイツと元バイエルンの南ドイツでは、日本の東北と九州のように違う。第二次世界大戦後の街の壊滅から復興し、EUを牽引する経済大国であり、現在は少子高齢化に悩むところも同じだ。一方日本とドイツの違いが、ドイツには元気で魅力的な地方小都市が多いことなのだ。ドイツは歴史的に地方分権で独立した地方の集まりだからともいえるが、それぞれ伝統を誇り、街のプライドが高い。
例えばケルンとデュッセルドルフの仲の悪さは有名だ。理由はローマ時代からの伝統都市ケルンが、新興都市のデュッセルドルフに州都の地位を取られたからだそうだ。とにかくケルンのバーでは、デュッセルドルフの地ビールのアルトは売られていない。デュッセルドルフのバーでは、ケルンの地ビールのケルシュは売られていない。それぞれ間違って注文しようものなら、店をたたき出されると言われている。
この街意識の高さは、ドイツの都市の元気の秘訣の一つだろう。通りすがりの外国人にとっては、ビールが美味しくなるネタだ。
また大都市及び老朽化インフラ問題があるイギリス、フランスでも、地方都市は地方都市で存在している。最近でもスペインの人口18万の街サン・セバスチャンが、10年程で美食の街に成長して世界の耳目を集めていることは、高城剛氏も著書で紹介している通り。
農業では、農業の工業化を成功させているオランダの農業スタイルは、日本が今後参考にすべきと言われて久しい。インフラ問題でいえば、ロシアの地方都市の道路事情の悪さはもはや世界的なネタだが、それでも存続している。
例を挙げればきりがない。どこも一長一短はあるが、多様性のオンパレードだから、どこか何か参考にできるところが見つけられるだろう。
それにしても東京在住の私が地方都市を支持することには、理由がある。元不動産アセットマネージャとして(この職業については誤解が多いのだが)また現在もコンサルタントとして、日本全国の地方都市と関わりを持ってきている。一般には投資の一点のみが着目されがちだが、収益不動産の所有は、長い年月にわたり入居者を確保し、建物をメンテナンスし、収益を維持続ける地味な取り組みがある。収益不動産の命運は街の運命と一心同体だから、いきおい地域の人口及び経済動向、特徴、土地柄、人の全てに関心と愛着を持つことになるのだ。全く日本の地域ごとに異なる歴史と気候風土が作る固有の魅力は、何物にも替えがたい。
東京もそろそろ限界が見ている。東京の人口も東京オリンピックの2020年をピークに減少基調に入る。その頃には東京の人口の4人の1人が高齢者の巨大な年寄の街となるそうだ。更に今後は外国人移民も増えるだろう。とても、子育てに向いた環境には思えない。
だから少子高齢化の影響が一足早い地方都市が、地域性と現代を融合した新しい地場産業を創出し、若者も暮らしやすくいコンパクトシティ作りを一足早く達成すれば、数十年後は、東京は高齢者と移民の街となり、金融等一部産業以外の若年層は地方都市に回帰するという現象は、十分にありえるだろう。
江本不動産運用アドバイザリー
代表 江本真弓