「里山ウェブの時代」の曖昧な不安

2014年06月22日 10:41

6月22日(日)深夜25時からのTBSラジオ「文化系トークラジオLife」に出演する。テーマは「里山ウェブの時代」だ。言いたいことが沢山あるテーマだが、番組の出演者も多いし、この番組自体生き馬の目を抜くような競争社会となっている。番組で発言できなかった時のために、ここに意見を記すことにする。


まず「里山ウェブ」と何か?まだ定義は明確になっていないように思うが、番組の告知ページを拝読する限り、「里山資本主義のウェブ版」とも言える内容だ。ある程度、閉じた社会の中でコンテンツをつくり、流通させ、お金をもらうという。

具体的なサービスなどで言うと、有料メルマガ、cakesなどの有料コンテンツサイト、ニコニコやcakesのnoteのような課金可能なプラットフォームなどをイメージすれば良いだろうか。会員制の有料コンテンツ、という。ただ、この言葉にはそれだけではない広がりを感じる。

たしかにネットニュースの原稿料は相場がどんどん安くなっていると感じる。ネットに限らずだが、コンテンツを的確に届けること、それでお金をもらうことがどんどん難しくなっていると思う。

この辺は、物書きとしても、読者としても問題意識がある。お時間のある方は、次のエントリーを読んで頂きたい。

有料メルマガをやめました 我が動員とマネタイズ敗北宣言
http://agora-web.jp/archives/1533347.html

「有料メルマガをやめました」宣言、その後 ウェブ進化にはこういうぶっちゃけ話が大事である
http://www.yo-hey.com/archives/54477445.html

著者と読者を不幸にする有料メルマガという仕組み 珍しくイケダハヤト師に同情する
http://agora-web.jp/archives/1579066.html

出版業界で食うというロックな生き方①「売れてないな」と思った本がベストテンに入る時代
http://agora-web.jp/archives/1592896.html

出版業界で食うというロックな生き方②先に「食えない」を経験した音楽業界から学べ
http://agora-web.jp/archives/1593029.html

出版業界で食う(3)出版社、編集者には存在価値がある、と信じたい
http://agora-web.jp/archives/1594562.html

「それはお前の愚痴だろ」と言われるとそれまでだが、どのエントリーもウェブ、出版の関係者や、著者・編集者から反響があった。特に「有料メルマガをやめました 我が動員とマネタイズ敗北宣言」はTwitterで大変に拡散し、ついにはヤフトピにまで載ってしまった。ヤフトピをとったことは中川淳一郎君からの電話で知った。「よくぞ言った」と彼は電話の向こうで言った。ジワッと涙が出た。

6月に入ってからも、ある著名な著者から「有料メルマガをやめようと思っている」という相談を受けた。状況を聞いて、「ぜひ、やめるべきですよ」と進言した。

個人的には「里山ウェブ」というものを支持するかどうかで言うならば、一つのスタイルとしてアリだと考える。適切な対象に、適切な価格で、ここだけのコンテンツを届けることができる。普通のウェブのように、日々情報が流れていき、風化されることもない。自分のことを知らない人から誹謗中傷され、炎上するリスクだって軽減されるだろう。書籍のように、作っても書店からすぐ消えていくということもない。

ただ、それで成功できるかどうか、それが消費者と創り手を幸せにするかどうかで言うと、別問題だ(当たり前だが)。また、従来のウェブなのか、里山ウェブなのかというorの関係ではなく、andの関係もありうるだろう。

まず、この会員制有料コンテンツの歴史は長い。ファンクラブの会報誌などがわかりやすい例だ。業界誌、学会誌なども広義では会員制有料コンテンツだと言える。

以前は、FAX会員ニュースなるものもあった。私が1997年に新卒でリクルートに入社して最初に配属されたのは、ファクシミリ一斉同報サービスの事業部(現在はITホールディングス傘下のネクスウェイ)だったが、当時はマーケティングのノウハウ、投資に役立つ情報などを有料の会員制FAX通信で届けている企業や個人がそれなりにいた。

実は、まさに、私の新人時代のミッションは、ファクシミリネットワークを使って、コンテンツを持っていそうな企業(例えばスポーツチーム、芸能事務所)などに、会員制コンテンツ立ち上げの提案をするというものだった。自分は新人時代、意識も能力も低かったが、今思うと難易度が高いミッションだったと言えるだろう。社会がインターネットに向かう中、FAXサービスを提案するというのは無理ゲー感が漂っていたが、それ以上にどんなコンテンツを作るのか、他のコンテンツとの棲み分けをどうするか、運営体制をどうするか、会員をどう集めるかが問題になった。

どこかで聞いたような話ではないか。2014年の今も、同じような議論が続いている。

このあたりの設計を絶妙に考えた人が勝つわけである。

この手の話の成功事例として、いつも出てくるのは、津田大介氏のメルマガ(通称津田マガ)であり、cakesなどであり、だから今回の出演者には津田大介氏も加藤貞顕氏もいるわけだ。

津田マガはすごい。『メディアの苦悩』(長澤秀行 光文社)によると、登録者数は8,000名とも言われている、とある(いま、日本に向かう飛行機の中でこの原稿を書いており、手元にないのでうろ覚えの数字である。間違っていたら、訂正する)。見本や、自分が寄稿した号を読んだことがあるがなんせ、圧倒的なコンテンツ量とクオリティである。

cakesはすごい。なんせ、著名な、今読みたい人たちの論考や対談が多数掲載されている。サイトのデザインもかっこいい。

他にも有料会員制コンテンツの成功事例はたまに聞く。

ただ、いつもこの手の話を聞いて首を傾げるのは、一部の成功事例が取り上げられ、屍の山のように広がる失敗事例は語られないことだ。やや穿った見方だが、メディアが失敗事例を取り上げないのは、業界自体が盛り下がっているかのように見えるからじゃないかと。いや、やっている本人自体も盛り下がっていることなどわざわざ言わない。成功している風を装わなければならない。

成功事例を聞く度「はいはい、また津田マガとcakesですか」と思ったりする。

ただ、これらも「成功している“ことになっている”」と感じてしまうのは、私がひねくれ者だからだろうか。

津田マガもcakesも正式なユーザー数と売上を私は知らない(津田さん、加藤さんのTwitterなどをたどれば出てくるかもしれないが、そこまでできていない)。これは推測だが、公表していないのではないか、と。ぜひご本人たちに番組でお伺いしたい、可能であれば。

cakesもユーザーがどれくらいのトレンドで増えていて、どれくらい満足しているのかは知らない。クリエイターがどれくらい食えているかも知らない。私は1回だけ短期連載をさせてもらったが、よくも悪くも普通のネットの連載くらいの原稿料だった(もちろん、cakesに出ている売れっ子さんたちとは格が違うのでしょうがない)。

話は前後するが、津田マガが仮に本当に8000名の読者がいたとしたら、たしかに売上は結構な額になる。

ただ、ここも疑問があって、彼の事務所って結構な人数のスタッフがいたのではないだろうか。他にも外部のライター、編集者が参加している。利益は出ているのだろうが、彼らはどれくらい食えているのだろうか。

彼のメディア露出は明らかに増えているが、会員はもっと増えていてもいいのではないかと思ったりする。

まだまだ書きたいことがあるが、MacBook Airの電池が切れてきた。

里山ウェブには可能性があるかないかで言うと「ある」と答えるし、成功している(ようである)事例があることも認めよう。

今後は、サラリーマンや主婦が副業としてノウハウを換金化する可能性もあるだろう。それはなかなか素敵なことだ。

ただ、それを一般化して語るのは違うのではないかと。津田マガとcakesを始め、かかっているパワーが違うわけで。

また、それに可能性があるとしても、つくり手と読者がそれを求めるかどうかは別問題である。率直に、有料メルマガは、やっていて苦しかったのだ。お金を払ってくれている36名(全盛期72名だったと思う)の期待に応えるためのコンテンツをつくることが。

何より、「マネタイズ」なる言葉が、読者の前で語られることに違和感を覚えた次第だ。読者の気持ちを考えなくては、と。自戒を込めて。それは読者にとって嬉しいのかという原点を確認しておきたい。リクルート時代、気持ち悪いと感じた、「首都圏のカップルに日帰り旅行を“させる”」的な使役動詞トーク同様の気持ち悪さを感じる。

いつの間にか、読者不在になってしまった。これもひとつのメディア衰退の答ではないかと。

というわけで、本当はもっと丁寧に書きたかったし、言いたいことはまったく言い切れていないのだが、この辺で。

今日の番組に期待して欲しい。Podcastでも聞ける。夜露死苦。NYからの飛行機の中から、JALの無線LANにて発射!

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常見 陽平
千葉商科大学国際教養学部専任講師

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