日韓両国は「愛さなければならない」 --- 長谷川 良

2014年07月09日 15:16

暑い夏の夕方、知人の韓国外交官と久しぶりに会い、少し早い夕食を取りながら語り合った。知人は昼食時にはビールを飲まないが、夕食時にはビール解禁というのだろう、ビールのジョッキを傾けた。日常の出来事などを話した後、知人は「安倍晋三首相は韓国に対して謝罪してない」と言い出した。始まったのだ。知人は韓国外交官の中でも愛国者の一人だ。安倍首相の言動を許すことができないという。知人が日韓の歴史問題を持ち出した時、当方はいつものように日本側を擁護する側に立つ。


「安倍首相は過去、何度も謝罪を表明していますよ。韓国側がそれを受理しないだけですよ」とやんわりと知人の発言を訂正すると、知人は「安倍は謝罪などしていない。河野談話の検証をみても分かるだろう。彼は歴史を正しく受け取っていないのだ。安倍政権は史実を歪めた教科書を出版させている」という。具体的には、どの教科書の、どの歴史問題か、知人に聞いても余り意味がない。知人は安倍首相が日韓の正しい歴史認識を阻んでいると信じているからだ。

そこで当方は「河野談話」の検証結果とその反応などを説明し、「日本政府は河野談話を再考する意思がないことを表明しています。河野談話の検証では韓国側の意見も聞きながら外交調整してきたプロセスが明らかになったわけです。その意味で検証も意味があったと思います。河野談話の作成段階で日本と外交調整などなかったと主張してきた韓国側には少々不味かったかもしれませんがね」と意地悪なコメントを付け足した。

知人は当然、旧日本軍の慰安婦問題に言及してきた。「許されない蛮行だ」と繰り返す。そこで当方は「歴史は戦争の歴史です。そして戦争にはクリーンな戦争など存在しません。日本側も慰安婦問題では過去何度か謝罪を表明しています。韓国側が日本側の謝罪を受け入れないから、謝罪は成立しないのです。ただし、国家レベルでは日韓両国は1965年、日韓請求権協定を締結済みです」というと、知人は「日本は過去、慰安婦問題で謝罪を表明したことがない」と頑固に主張する。そこで「韓国で新政権が発足する度に日本は謝罪を表明してきています。韓国側の謝罪要求が余りにも多いので日本の国民の中には嫌韓傾向が出てきていますよ。李明博前大統領は発足当初、日韓の未来志向を標榜していましたが、政権の終わりには突然竹島(韓国名・独島)を訪問したり、反日言動を繰り返したりしましたね。政権の一貫性という観点では韓国側の責任も大きいですね」と、少し攻撃的に出た。

知人は「ドイツを見ろ。ドイツは戦後、真摯に過去を謝罪したから、国際社会から受け入れられたのだ。それに比べ、日本は戦後、その歴史を粉飾してきた」と、「ドイツを見ろ論」を展開してきた。そこでいつものように、当方はドイツと日本の戦後処置の違いについて説明した。「特定のユダヤ民族を虐殺してきた歴史に対し、ドイツは謝罪してきた。ドイツにはそれ以外の選択肢はない。日本の場合、戦争です。ドイツは戦後、国家レベルの賠償は実施していません。犠牲者への個々の賠償を実施してきたのです。一方、日本は国家レベルで賠償支払いを実施しました。日韓請求権協定に明記されている内容です。ドイツと日本は戦争賠償問題で違いがあるわけです。その事実を無視して両国の戦後処置を比較し、『日本はドイツを見習え』という主張はそろそろ止めるべきですね」と述べた。

しかし、知人の怒りは収まらない。そこで当方は「英国はアヘン戦争の蛮行について中国側に公式謝罪しましたか、ベトナムは戦争中の韓国兵士の慰安婦問題でソウルに謝罪を要求しましたか。インドネシアがオランダに戦争責任を追及して、謝罪を要求したとも聞きません。当方が知る限り、戦後、相手国に謝罪を要求している国は韓国だけです。植民地化された国やその国民は多くの悲しみを体験したことは間違いないでしょう。だから、日本は戦後、平和を国是として努力する一方、政府開発援助(ODA)などを通じて経済支援を実施してきたわけです」と説明した。

知人は「日本が国家レベルの賠償を実施したが、慰安婦への謝罪表明と賠償を実施していない」と言い出した。そこで「日韓請求権協定をみてほしい。日本は謝罪を表明し、当時としては巨額の5億ドルの賠償金を韓国側に支払った。そして両国間の戦争問題の解決を図っている。慰安婦問題では後日、韓国側の強い要望を受け、人道的観点から慰安婦救済の基金、アジア女性基金を創設している。ただし、そのアジア女性基金に対して反対してきたのは韓国政府ではなかったか。参考までに言及するが、韓国は米国内で慰安婦像を設置して反日活動を進めているが、ここにきて20万人の慰安婦が犠牲となったと主張している。中国の南京虐殺事件の30万人説と同様、史実に基づかない主張を展開し出している」と主張した。

知人が「韓国は日本の犠牲国だ」といった時、当方は「韓国は戦後、戦勝国には入れなかった。どうしてかご存知でしょう。韓国は当時、日本の同胞として一緒に戦争したからです。もちろん、韓国人の中には少数ですが、反日運動を展開した国民もいましたが、多くの国民は日本と共に敗戦を迎えたのが事実ではないですか。朴正煕元大統領(1963年12月~79年10月)は日本軍人でしたよね」と、言わなくてもよかったことまで言ってしまった。

その後、当方と韓国外交官との「正しい歴史認識」議論がどのように展開されたか、賢明な読者なら想像できるだろう。食事も久しく終わっていたが、議論は続いた。結局、2時間余り、当方と知人は議論した後、「終わりのない議論はここで閉じよう」となり、レストランを後にした、知人は路上に出てからも「しかし、君、安倍首相は一度も謝罪をしていないよ」と呟いた。当方は握手しながら「続きはまた次回に」といって別れた。外の風が気持ち良かった。

議論で日韓の歴史問題は解決できない。個々の歴史事実を取り出して説得しても和解はできない。それではどうしたらいいのだろうか。嫌韓派知識人のように「無視」「語らない」ことは一つの方法かもしれない。しかし、「語る」とすれば、先ず、相手とその民族を愛さなければならないだろう。相思相愛だから「愛する」のではない。デンマークの実存哲学者セーレン・キルゲゴールがいったように、「(われわれは)愛さなければならない」からだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年7月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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