上空1万mで人生を終えた人々 --- 長谷川 良

2014年07月21日 11:23

アムステルダムからクアラルンプールに向かったマレーシア航空機MH17が7月17日、ウクライナ領土東部上空で撃墜され、乗組員を含む298人全員が死亡した。このニュースが流れると世界はショックを受けた。誰が民間航空機を撃墜したのか。国際専門家の調査結果が明らかになるまで待たなければならないが、米国を含む欧米諸国にはロシアから軍事支援を受けたウクライナ東部の親露派武装勢力の仕業と受け取られ、地対空ミサイルを供給したロシアへの批判が高まっている。

当方はオーストリア日刊紙プレッセ(7月19日付)が報じた記事に基づいて、犠牲となった旅客のプロフィールの一部を紹介し、上空1万メートルの航空機にたまたま搭乗していたゆえに、ウクライナ上空で地上から飛来した地対空ミサイルの犠牲となった298人の運命を考えたい。


犠牲者の国籍は10カ国以上に及ぶ、オランダ人が189人、マレーシア人44人、オーストラリア人27人、12人のインドネシア人、英国人9人、ドイツ人4人などだ。一人の修道女はフランスで修練を受けた後、オーストラリアのシドニーに帰国途中だった。逆に、5年ぶりにマレーシアに戻って6週間あまり故郷で憩う予定の人もいた。オーストラリアで開催予定の国際エイズ会議に参加する学者、関係者も多数搭乗していた。その中には、世界保健機関(WHO)の広報担当官も含まれていた。49歳の報道官は1週間前、実父の葬儀を行っている。オランダ人のゲストの中には搭乗する前に「飛行機が消滅したら、君たちはどこに行って探さなければならないか知っているだろう」といった冗談のメールを友人に送ったオランダ人がいた。その冗談は本当になった。冗談のメールを書いた本人は考えてもいなかった運命だ。オランダで休暇を楽しでいたオーストラリアの家族は今秋に始まる学校の準備のために子供たちを先に帰国させた。子供たちが搭乗した航空機の撃墜を知った時、両親はどうだったろうか(プレッセ紙)。

今回犠牲となった298人の誰一人としてウクライナ上空1万メートルを通過中に運命の一撃を受けるとは考えてもいなかったはずだ。考えられる人などいない。犠牲者の痛んだ遺体はウクライナの地に落ちた。ウクライナを過去、訪問したことがあった犠牲者はいただろうか。ほとんどの犠牲者は未知のウクライナの大地で人生の最後を迎えたのだ。

上空1万メートル、見知らぬ地ウクライナ、そして地対空ミサイル……この3点が絡んだ今回の悲劇は「犠牲者にとって悲しい偶然に過ぎない」のだろうか。当方は偶然を信じない。われわれは詳細なことは分からないし、犠牲者自身も多分知らないが、悲劇と何らかの繋がりがあったと考える。「偶然ではなく、繋がりがあった」とすれば、「その繋がりとは何か」と問われれば、「わからない」と言わざるを得ない。誰にも納得できる説明ができないので、それしか答えられない。しかし、何らかの「繋がり」があったと信じている。

われわれは単なる偶然が織りなす人生を歩んでいる存在ではないはずだ。人間の運命を偶然で済ませてしまうことは酷なことだ。全ての人は生まれてきた以上、何らかの願いとその使命を担っていると考える。人間は単なる偶然によって弄ばれる存在ではなく、尊厳性のある存在であるゆえに、犠牲者の人生を考える時、涙が流れてくるのではないだろうか。

犠牲者298人の人生を無駄にしてはならない責任がわれわれにある。具体的には、ウクライナの和平を早期実現するため、これまで以上に全力を尽くさなければならない。和平が到来した時、298人の犠牲者は単なる偶然の被害者ではなく、和平実現の尊い供え物となったといえるだろう。歴史を振り返れば、人間は何らかの犠牲(受難)を払うことで一歩一歩前進してきたのではないだろうか。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年7月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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