メガソーラーと農地転用(1)~農地法~ --- 宇佐美 典也

アゴラ

最近メガソーラーがらみの仕事で久々に農地転用について勉強しているので、しばらくまとめていきたい。大変マイナーな話題だが、ごく一部の人に取っては深く刺さるであろうからまとめてみることにした。

太陽光発電に取って良い条件の土地とは「日照条件が良い土地≒農業に取ってよい条件の土地」なので、地方でメガソーラーの開発を検討するとなるとしばしば農地とバッティングする。農地は農業以外に用いることが出来ないので、大抵の場合は農地転用の許可が下りずメガソーラーの計画は頓挫することになるわけだが、まれに農地転用が可能となる場合がある。それについて今回はしばらく見ていきたい。

日本の農地制度の根幹は、「農地法」「農業振興区域の整備に関する法律(農振法)」その他土地改良法などの関係法律で回っている。今回は本丸の農地法の目的規定から見てみる。最近の法律は目的規定が置かれるのが常なのだが、目的規定は法律の条文を書いた役人の魂が込められていると言っても過言ではなく、入念に読み込めばその法律のミッション、体系が分かる。農地法は平成23年に大改正が行われて現状の目的規定が置かれた。

【農地法 第一条】

この法律は、国内の農業生産の基盤である農地が現在及び将来における国民のための限られた資源であり、かつ、地域における貴重な資源であることにかんがみ、耕作者自らによる農地の所有が果たしてきている重要な役割も踏まえつつ、①農地を農地以外のものにすることを規制するとともに、②農地を効率的に利用する耕作者による地域との調和に配慮した農地についての権利の取得を促進し、及び③農地の利用関係を調整し、並びに④農地の農業上の利用を確保するための措置を講ずることにより、耕作者の地位の安定と国内の農業生産の増大を図り、もつて国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的とする。

そんなわけで農地法には「①農地を農地以外のものにすることを規制」「②農地を効率的に利用する耕作者による~農地についての権利の取得の推進」「③農地の利用関係の調整」「④農地の農業上の利用を確保」に関する措置が講じられている。

こうしたミッションに基づき農地法第三条では農地又採草放牧地(以下「農地等」)の権利移動が制限されている。具体的には農地等について「所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、~当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。」とされている。そんなわけで農地に関する権利を設定するには農業委員会の許可を受けなければならない。農業委員会とは「農業委員会に関する法律」に基づいて各市町村に設置される農地行政の末端を取り仕切る機関だ。第三条自体は直接的に関係ないのだが、この農業委員会というのはしばしば登場してくる重要プレーヤーになる。

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http://www.nca.or.jp/organization/より)

さて話を進めると農地法第四条では今回の本題となる「農地の転用の制限」が定められている。とてつもなく長い条文なので全文引用を避けて要点を説明すると、農地を農地以外の土地に転用するには都道府県知事または農林水産大臣の許可を受けなければならない、としている。農地の大きさによって

①2ha以下の農地の転用:都道府県知事の権限で転用可能。ただし都道府県農業会議の意見を聞く必要がある。

②2haより大きく4ha以下の農地の転用:都道府県知事の権限で転用可能だが、国への協議が必要(昭和27年附則第2項による規定)

③4haを越える農地の転用:農林水産大臣の許可

というように三つの区分に別れている。ようするに2haを越える農地の転用には農林水産省の関与が必要となる。また「都道府県農業会議」なる新しい組織が出てきたが、これは農業委員会法に基づいて各都道府県に設置される、農業行政について建議する機関である。ややこしい。ところで②の区分における国への協議は昭和27年に「本来は都道府県知事の任務であるが、専門的・総合的な視点での国の関与が当分の間必要」とされて附則で義務づけられたものだなのだが、それが現在まで60年間に渡って続いているのは法制度として余りよろしくないと思う。「当分の間」といって60年はやりすぎだろう。法律読者の理解を分かりやすくするためにも附則にこのような重要な事項を書くことは余り好ましいことではない。

さて話はそれたが、他方で第4条では法律上で「農地以外に転用することができない農地」として具体的に以下のようなものを挙げている 。

①農用地区域内農地

 ー農用地区域とは農振法に基づいて都道府県知事が指定する農用地として利用すべき土地を指す

②良好な営農条件を備えている農地。ただし市街地又は市街化が見込まれる区域は除く(通称「第一種農地」)

 ー概ね10ha以上の規模の一団のうちの区域にある農地

 ー土地改良事業またはそれに類する事業の対象になった農地

③第一種農地のうち特に優良なもの(通称「甲種農地」)

 ー②の第一種農地のうち市街化調整区域内で土地改良事業等の工事が完了して8年未満又は高性能農業機械による営農を適すると認められる等、特に優良なもの

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農水省HPより)

残念ながら(というのはあくまで再エネ事業者の視点であるが)農地でメガソーラーをやろうと思うとまずこれらの基準に抵触することになる。特に①にはまず抵触すると考えた方が良い。そのため農地でメガソーラーをやろうと思うと、かなり高い可能性で農地転用の許可が下りず頓挫することになるのだが、まれに土地改良法に定める「換地」という手法を用いて突破することが出来る場合がある。

この点についてはまた別の日に述べたい。ではでは今回はこの辺で。


編集部より:このブログは「宇佐美典也のブログ」2014年7月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は宇佐美典也のブログをご覧ください。