ギャンブル依存症への理解と支援のために(1)~ 見えない実態 --- 石川 公彌子

2014年08月06日 17:47

「依存症」なのに見えないギャンブル中毒

身辺雑記から書き始めるのもおこがましいが、本年7月よりご縁あって依存症回復施設運営や関連事業を展開するOneness Groupの非常勤スタッフとして働いている。

本部チーフコーディネーター兼アディクション研究所研究員として、講演会等の企画・立案や行政機関との連携、各種研究に従事するのが職務である。もちろん、本業である日本政治思想史/政治学/死生学研究者としての活動をやめたわけではない。

むしろ、「生きづらさ」を抱えた人びとが互いの<弱さ>を認め、尊重し合い、共同して生きていこうとする姿から自分の研究テーマに通じる多くのヒントを得ている。「やり直しのきく社会」「風通しのよい社会」を作るという、研究者としての問題意識の原点に絶えず立ち返る日々である。


一口に依存症といっても、薬物依存症やアルコール依存症から買い物依存症や摂食障害にいたるまで、その種類は多岐にわたる。とりわけ、患者数の増加に社会の理解や対策が追いついていないと痛感するのが、ギャンブル依存症の問題である。福祉現場の援助職の方々の話を伺うと、ギャンブル依存症が原因でホームレス化する40代以下の若年層が増加しているという。ギャンブルといえば、中高年男性が競馬や競艇、競輪に有り金をつぎ込むというイメージがあるが、そのイメージはいとも簡単に裏切られるのである。

しかし、我々が日常生活のなかで若年ギャンブル依存症者の姿を目にすることはあまりない。「本人の意思の弱さが原因の怠け病」「家族とくに母親の甘やかしによる、ただのワガママ」というような偏見ゆえ、本人も家族も問題を抱え込んで必死で表沙汰にならないようにするというのが、その「不可視化」の一因であるといえるだろう。

依存症者の心理はどのようなものか?

だが、要因はそれだけではない。ギャンブル依存が病気であるという認識がないため、犯罪や生活苦、借金、鬱病等の精神疾患の背景にギャンブル依存が存在しているという事実が見過ごされ、表に出てこないのである。

たとえば、問題となっているベネッセホールディングスの顧客情報流出事件の背景にも、ギャンブル依存があった。逮捕された容疑者は警視庁生活経済課の調べに対し、「ギャンブルで約60万円の借金があり、家族の入院費などと合わせると約170万円の借金があった」と供述しているという。家族の入院という不幸な出来事があったにせよ、ギャンブル依存の問題がなければ借金額もここまで増えず、家計にも余裕があったのは確実である。ギャンブル依存に起因する借金による生活苦が、不正な顧客情報の持ち出しや売却につながったとみてよいだろう(「ベネッセ流出事件:「ギャンブルや入院費で借金、SE供述」毎日新聞、2014年7月18日)。

次に、大々的に報道された大王製紙の井川意高・元会長の背任事件のケースを見てみたい。2011年、井川氏は会社法違反(特別背任)の容疑で東京地検特捜部に逮捕され、2013年に懲役4年の実刑判決が確定している。取締役会の承認決議がないままなされた連結子会社からの借入総額は約165億円に達しており、借入金の大半がシンガポールやマカオのカジノでのギャンブルに費やされたことが判明している。なぜそこまでしてギャンブルにのめり込んだのか、井川氏自身が以下のように述べている。

「なぜ、と問われれば、ただギャンブルが好きだったから、としか答えられない。私は、パチンコにハマって破滅する主婦の気持ちがよくわかります。私とは金額が違う、とおっしゃる方もいるかもしれませんが、根本は同じです。可処分所得をはるかに上回るカネをパチンコに注ぎ込み、なかにはサラ金や闇金にまでカネを借りるようになると聞きます。支払いの限界を超えても、”なんとかギャンブルで勝ちたい”という気持ちが賭場へと足を向かわせてしまう……。カジノのテーブルに着いた瞬間、私の脳内には快感物質が溢れます。丸1日半、何も食べなくても空腹を覚えません。結局、ギャンブルがもたらす高揚感や刺激に、どっぷり浸かっていたのです。実は逮捕前、医師のもとを訪ねたところ、ギャンブル依存症と診断を下されました。自分で自分をコントロールできなかったのですから、やはり私は病気だったのでしょう(大王製紙井川前会長告白「106億円を失ったカジノ地獄」vol.2、エキサイトニュース、2013年11月24日)。

ギャンブル依存が本人の意志の弱さによるものでも家族の甘やかしによるものでもなく、依存症という「病気」であるということが如実に語られている。「病気」であるならば、早期発見・早期治療がもっとも適切な対処法である。けれども、我が国においてはその認識が浸透していないことは、すでに述べた通りである。果たして、このままでよいのだろうか。

(2)に続く

石川 公彌子
研究者(日本政治思想史)

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