戦乱絶えないアラブ問題は対岸の火事ではない --- 岡本 裕明

アゴラ

私が大学生の頃、中東問題の議論があったのですが、正直、中東のことはほとんど理解できませんでした。73年石油ショックや中東戦争など表面的な事実関係を垣間見た程度であとはトイレットペーパーを買いにレジに並んだといった経験や石油の値段が暴騰したという記憶ぐらいしかありません。

それがほんの少しだけ理解できるようになったのはカナダにきてからでしょう。顧客にイスラム系の人が多く、住民にも多いこと、更にユダヤとの付き合いを通じてキリスト教、ユダヤ教、イスラム教について少しでもわかるよう努力をしたからかもしれません。


ほとんどの日本人にとって「イスラムの国」の問題やハマスとイスラエルの戦いなどは遠い世界であって、唯一、関心を引くのはシリアで日本人の記者らしき人が誘拐されたという日本に直接関係あるニュースであります。しかし、石油の価格が上昇し、家計に響くということに対して最近はあまりニュースにもならず、車を乗る人はあきらめの境地ということなのかもしれません。それは私が中東に興味もなかったし、理解もできなかったことと同じであります。

例えば13日の日経には「リビア内戦状態に」という記事が掲載されているのですが、ほとんど注目されることはないでしょう。そこには主要国の外交団は首都トリポリを脱出し、外資系企業の従業員も国外退避しているとしています。トリポリの国際空港で大規模な戦闘があり、駐機中の航空機の9割が破壊され、空港が閉鎖されていると報じています。我々に直接的影響があるものとして世界第九位の産油国である同国の原油生産は13年実績の半分以下に落ち込んでいて国際原油相場に影響がありそうな気配となっています。

リビアといえば40年間トップを務めたカダフィー大佐がアラブの春で失脚、その後民主主義政権を作ろうと努力したものの結局イスラム過激派などの武装勢力が政府を追い詰めているのです。全く同じ構図はイラクでもありました。アメリカがあそこまでやってようやく退去、オバマ大統領にとって当初のお約束を果たしたはずでありましたが、政権をめぐる混沌とした状況は何一つ変わらず、北部で「イスラムの国」をめぐる激しい戦いとなってしまいました。オバマ大統領の空爆許可は苦渋の選択そのものです。夏休みのゴルフのショットはぶれていないでしょうか?

同じ、アラブの春で政権が民主化が進んだエジプト。ムルシー氏が12年6月に大統領につくものの13年7月に軍部クーデターで終焉、現在、アッシーシー大統領の下で新たな道を探っている最中ですが、この国もアラブの春を通じて負の遺産は大きかったと思います。勿論、今後もどうなるか、全く予断を許しません。

中東の多くのケースがイスラム原理主義が作り出す問題が影響しているように見えます。原理主義、一言で言えば本質に極めて厳格である主義主張をイスラム教の経典に当てはめることでエキストリームな発想や行動、それを社会の正とすることでしょうか? 日本でも学生運動が世を賑わしていた頃、「原理研」はどこの大学にもあったと思います。マイクでがなり立てていたあの人たちは過激派として日本では大きな問題を引き起こしました。最後は主義主張ではなく、アピアランスを道徳観と常識観を超えて社会に強要しようとしたようなものだった気がします。

中東で起きている様々な国内紛争はイスラム教の中でその派閥、主義主張によって分かち合えなくなった状態と言ってもよいでしょう。これは多神教の神道である日本において一神教のこの主張は理解しにくいものがあると思います。あるいは日本に於いて近年、仏教の宗派の違いで揉めたという話は聞いたことがありません。キリスト教はカソリックとプロテスタントがそれなりに落ち着いた関係にありますし、ユダヤ教はキリストの旧約聖書をともに正典とする点において一定の落ち着きがあります。が、もちろん、過去、宗教をめぐる争いはあったわけです。

とすれば、中東問題は本質的にはイスラムの世界の中で解決すべき問題であるのですが、過激派の一部がアメリカを敵対視していることからおさまりがつかないのかもしれません。ことをややっこしくしているのはイスラエルの存在であり、ざっくりユダヤ人の大半はイスラエルとアメリカに半々住んでいるということ、そして、アメリカのみならず、世界の政界、財界を押さえていることにあるのでしょう。

日本と中東はそういう意味で宗教的かかわりが全くない点において、企業活動にはやりやすさもあるのでしょう。ただ、そこには膨大なるリスクが伴うことも頭に入れておかねばなりません。日揮のアルジェリア問題はまだ記憶に新しいでしょうし、その昔には三井物産が主導したイランジャパン石油化学の問題もありました。それは日本企業や日本人には入りやすいマーケットかもしれませんが、中は迷路のようになって成果を上げるのは至難の業ということなのかもしれません。

地球上で人々の争いが終わることはないのでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年8月18日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。