朝日新聞的空気の研究 --- 城 繁幸

2014年09月25日 09:18

今週のメルマガの前半部の紹介です。

慰安婦問題、東電吉田調書等を巡る一連の誤報で、朝日新聞社が大きく揺れています。産経、読売といった保守系競合紙はここぞとばかりに総攻撃を開始、週刊誌でも朝日バッシング記事を見ない号はありません。

彼らからすれば、読者の食いつきもよくライバルの足を引っ張れる美味しいネタですから、当面バッシングは続くことでしょう。朝日が大きな過ちを犯したことは事実ですから、仕方ないですね。

ただ、そうした批判記事の中には正直言って「?」な論調が混じっているのも事実です。「朝日は日本を貶めるというイデオロギーに染まった反日組織だ」的なオーバーリアクションは、それこそ誤報と同じレベルの思い込みに基づいた暴論のように思えます。

なぜ、朝日は誤報を繰り返したのか。そして、なぜその修正に30年かかったのか。それを紐解いていくと、日本のもう一つの顔が見えてきます。それは個人のキャリアを考えるうえでも貴重なケーススタディになるはずです。今回は筆者自身の朝日新聞との過去の経緯も振り返りつつ、考察したいと思います。


3つのリミッターの不在

朝日新聞には、組織として備わっているべき3つのリミッターが欠落していました。一つは、客観的なチェック機能です。

終身雇用型の製造業では、10年20年30年と勤続年数の長い社員を順に引き上げポストに就けることにより、技術を高いレベルで蓄積することが可能となります。では製造業ではないけれども同様にガチガチの終身雇用型企業である朝日新聞の場合、何を蓄積出来るのかと言えば、それは一つの価値観です。自虐史観でもリベラル史観でも何でもいいですが、ここでは仮にそれを“朝日史観”としましょう。

朝日新聞社に入るような東大京大や早稲田といった一流大を出たての新人記者は、当然まっさらで色のついていない新人です。それが毎年毎年ボーナスや昇給で査定される=朝日史観エリートである管理職から朝日史観に基づいてチェックされる→10年もたつと朝日史観に安らぎをおぼえるくらいになる→20年経ってデスクになるころには筋金入りの信者に、という具合にレベルアップされていくわけです。

もちろん、中にはそういう組織のカラーに染まらない人材もいます。でもそういう規格外な人たちは査定で評価されず傍流で飼い殺されるので、会社のメインストリームには影響しません(というかそういう人はたいてい30歳までに辞めます)。要するに終身雇用というのは、一つの考え方、価値観に純化するための装置なわけですね。

「なぜあんな荒唐無稽な記事が紙面に載ったのか」と多くの人が疑問に思っているでしょうが、そういう上に行くほどピュアな組織だと考えれば納得できるでしょう。功を焦りがちな現場をコントロールすべき役職者ほど濃厚な朝日史観に染まっていたのだから、こういう不祥事は起こるべくして起こったわけです。

筆者の同期にも朝日新聞記者になった人間がいますが、就活の時は「新聞記者は金だ!だから日経、読売、朝日の三紙しか受けない!S経、M日は負け組のいく会社だ!」が口癖だったのに、10年ほど経つと「いかに朝日新聞がジャーナリズムとして優れているか」を延々力説する人間に育っていて、いやあ、ああいう俗物をここまで自社カラーに染めるとは、素晴らしい人事制度だなと仕事柄感心した記憶がありますね。

そして、存在しなかった2つめのリミッターは、誤りを認める自浄機能です。誤りを認めれば、記事を書いた記者本人はもちろんのこと、その時の上司や経営陣にも責任問題が波及するのは必須です。まあこれ自体はどこの組織でも同じですが、朝日新聞のような終身雇用型組織の場合、後になるほど責任者が出世してどんどん軌道修正しにくくなるという特徴があります。

ちなみに、82年に最初に問題の吉田証言を紙面に載せた清田治史記者は、最終的には西部本社トップとして取締役にまで上り詰めました(2010年に退任)。現役の取締役に対して「あんたが昔書いた記事を取消、謝罪するから」なんて口が裂けても言えないでしょう。

ちなみに、一般的な日本企業で社員がなんらかの不祥事を起こした場合。

→ことが公になる前に速攻で懲戒解雇にする
→広告を人質にメディアに圧力かけて社名が出ないようにする、最悪出されても「元社員でありもはや関係はない」と社内への延焼を防ぐ

のがオーソドックスなスタイルですね。よくアーティストなんかでも突然メンバーの一人が首になるとたいてい一か月後くらいにそいつがドラッグやら何やらで逮捕されたりしますが、あれも基本は同じですね。延焼を防ぐために打ちこわしみたいなものです。

でも、朝日の場合、既に社内以外は大炎上していたわけで、そんな中、誤報を認めて当事者を処分するなんてしたらその瞬間に経営トップまで延焼するのは確実だったわけです。そう考えると、91年に強制連行報道を書いた植村記者本人が今春に退職した後で誤報を認める&「でも本人もう退職したんだから追及も処分も出来ないし、撤回のみとさせていただきます」でそれ以上の延焼を強制シャットアウトというのは、危機管理としてはなかなか上手く考えたなというのが筆者の見方ですね。

以降、
朝日新聞にもっとも欠けていたもの
雇用問題でも暴走機関車状態だった朝日
朝日が突き付けた日本の課題

+ショートショート「もし新聞業界が年俸制で記者がばんばん転職する世の中だったら」

※詳細はメルマガにて(ビジスパ夜間飛行BLOGOS


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2014年9月24日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。

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