駐セルビア中国大使の「論文」の意味 --- 長谷川 良

2014年09月26日 11:01

先ず、9月24日発の北京発共同通信の以下の記事を読んで頂きたい。

中国共産党機関紙、人民日報のウェブサイト「人民網」は24日、中国が西側の多党制の政治制度を導入すれば2年以内に武装衝突が発生し1300万人以上が死亡、1億3000万人を超える難民が出かねないとする李満長駐セルビア大使の論文を紹介した。一党支配を正当化し、民主化の「危険性」をPRする内容。現役大使による根拠に乏しい論文には批判も出そうだ。
論文は「西側の国は自由や人権の名の下に他国の内政に干渉している」と民主主義国を敵視。「多党制を導入したアフリカや旧ユーゴスラビアは混乱に陥り、経済も低迷したままだ」と強調した。

駐セルビアの中国大使の論文内容は共同通信記者が指摘するように根拠が乏しい。


多民族国家の中国が民主化プロセスで旧ユーゴスラビア連邦と同様の道を歩む可能性は十分考えられる。同大使が指摘するように「中国が30を超える小国」に分裂するシナリオも決して排除できない。その意味で、同大使の懸念は非現実的ではない。ただし、毛沢東主席の文化大革命や粛清で大量の国民を殺害した中国共産党関係者が「1300万人以上の国民が死亡する」と警告を発する資格はあるだろうか。そもそも「1300万人」という数字はどこから飛び出してきたのか。旧日本軍の「30万人南京虐殺」説を容易に捏造できる国だけに疑いは限りなく広がる。

忘れてはならない点は、民主化運動に抵抗し、武力でそれを阻止しようと乗り出すのは国民ではなく、一党独裁政権を維持しようとする中国共産党側だ。共産党政権が民主化運動を弾圧しない限り、1300万人の犠牲者が出るような武力衝突は起きないだろう。大量の死者が出るという警告は「中国共産党は民主化運動を弾圧する」と国際社会に向かって宣言したようなものだ。

もう一つ、旧ユーゴ連邦解体後の元共和国のその後についても、中国大使の指摘は少々事実からかけ離れている。セルビアは現在、欧州連合(EU)の加盟を目指して経済改革を実施中だ。クロアチアとスロベニア両国は既にEU加盟国だ。もちろん、両国の国民経済は決して良好とはいえない。特に、旧ユーゴ連邦時代の優等生、スロベニアは現在、厳しい状況にある。しかし、国民経済を抜本的に改革しようとすれば、どの国も通過しなければならない通常の試練だ。
 
旧ユーゴ連邦の国民は民主化後、経済的な試練に直面しているが、自由を享受している。言論・結社・宗教の自由を満喫しているのだ。だから、旧ユーゴ連邦の国民は、昔のような共産政権下の生活に戻りたいとは願っていない。

駐セルビアの中国大使の論文の場合、その内容より、共産党機関紙の「人民網」が民主化を批判する大使の論文をなぜ掲載したか、という点に関心がいく。

考えられる点は、中国国内で大きな民主化運動が台頭し、共産党政権がその運動に対し、もはや中途半端な対応では鎮圧できない状況下に追い込まれているのかもしれない。

ひょっとしたら、中国共産党内で熾烈な権力争いが広がっていることも考えられる。例えば、周近平現国家主席と江沢民元国家主席との間の戦いだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年9月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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