あなたの家の価値は毎年2%ずつ上昇し、物価もわずかながら着実に上がっている状況にあるとします。あなたの給与は毎年4月になるとベアと昇給、更には会社のボーナスも業績が良いので昨年よりアップが期待される、という世界はある意味、理想です。いや、少なくとも80年代まではそうでありました。こういう時はモノを早く買わないと価格が上がってしまうリスクがある一方で金融商品も利回り7%ぐらいのものがごろごろしていてどちらが得か、などと思わず悩める嬉しさすらあったものです。これが精神的にも健全な良いインフレです。
今、起きているのはどんなインフレでしょうか? 9月26日に総務省が発表した8月のCPIから計算するインフレ率。昨年同月比で3.1%(コア)と出ました。上昇は15か月連続です。生鮮品を含む総合は3.3%上昇です。ところがこれに対応するはずの収入はどうでしょうか? 今年初め、安倍首相は企業や経済団体に給与水準の引き上げを依頼し、ベア復活、ボーナスでの還元、あるいは非正規社員の正社員化を進めるなど様々な給与、人事対策が行われました。但し、大手の一部です。ほとんどの中小企業には「別の世界だから」と諦めムードすら漂っていたのではないでしょうか?
株価が上がったじゃないか、と言われても株をやっている人は大半が50代から上。経済の自転車を漕いでいる20代、30代の人々の生活がよくなったという話は一向に聞こえてきません。
物価だけが上昇し、今まで買えていたものが買えなくなる状況がスタグフレーションです。日本はジワリとですがその兆候が出てきています。
スタグフレーションになればどうなるのでしょうか? 消費減退→企業業績不振→給与所得抑え人事政策も抑制的に→世の中に不景気の空気が蔓延→日本の将来を危惧→外国勢が日本への期待度を下げ、円安加速→輸入物価更なる上昇…。これは最悪のシナリオですが、こういうこともあり得るという事です。
1月から4月までの平均で見ると物価上昇率はアメリカ1.40%、カナダ1.46%、ドイツ1.36%に対して日本は2.80%と突出しています。長期のグラフを見ても日本の金融緩和政策による円安によるデフレからの脱却効果は効き過ぎになってきています。ところが黒田日銀総裁は今の円安水準に対して特段違和感を持っていないようです(唯一為替の安定化についてはコメントしていますが)。通常、為替の変化による実際の市民生活への影響は半年以上のタイムラグがあります。理由はほとんどの企業は為替予約をかなり先まで行っているため、昨日、今日の為替の変化は直ちに影響が出ないのです。つまり、このところの円安の物価への影響は来年以降になるという事です。
また、日経新聞によると北海道、東北、北陸、四国など地方の物価上昇が酷く、経済の疲弊が進む可能性を示唆しています。安倍首相が地方創生の時代と言いながらこのままでは地方が先に追い込まれてしまう状況を作ってしまっているようにも見えます。地方都市の百貨店の売り上げは8月でマイナス1.9%と5か月連続減。車販売は東北、中国、四国地方は二桁減なのです。
訪日外国人は確かに前年比3割ぐらいの増加が見込めそうです。ですが、その観光訪問先は極めて限られています。外国人の個人旅行客が日本の隅々までやってくる時代にはまだ到達していません。また、日本も著名な観光地はともかく、それ以外のところは外国人を受け入れる土壌が十分にあるとも思えません。
ではどうすればよいのでしょうか? 私は稼ぐ力を取り戻すしかないと考えています。それは国民が直接的に稼げる輸出出来る力。そして、その分野は農業とそれに関連する第六次産業なのかもしれません。
忘れかけていた国家戦略特区で最も注目されているのが兵庫県養父市。なぜでしょう。利害関係が少なく、やりやすいからなのです。考えてみてください。戦略特区の一つ東京。参加するのは23区のうち9つだけです。半分以上に当たる14区は参加を見送っているのです。こんな戦略はないでしょう。ところが養父だけは養父がやりたいと言っているところで動かしやすいともいえるのです。ここは農業を通じた構造変化、体質改善の実験場となります。これが失敗したら安倍首相の再選はないかもしれないぐらいの大きなハードルなのですがここは踏ん張っていただかないとTPP発効以降の道筋ができないのであります。
残念ながらインフレ率は今後、しばらくの間上昇を続けるはずです。4%近くになってもおかしくないでしょう。その時になって慌てても間に合いません。金融の量的緩和は「入りは簡単ですが、出は極めて難しい」のはアメリカが証明しました。つまりいくらインフレが突き進んでも止められない可能性を秘めています。ならばいまから稼ぐ方法を見つけないと我々がかつて享受した良いインフレは幻となってしまいかねません。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年9月29日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。