このごろ在特会や右翼の脅迫ばかり話題になるので、バランスを取るためにNHKの「言論テロ」を紹介しておこう。本書は、版元によれば「政権党有力政治家が2001年にNHK最高幹部に『圧力』をかけることで、慰安婦問題を扱った『ETV2001』は著しく改変された。担当プロデューサーによる苦渋に満ちた証言は、NHKによる政権党への癒着を厳しく批判する」ということになっているが、当時の状況を知る私にとっては事情は逆である。
松井やより・高橋哲哉・池田恵理子などが発起人になって2000年に開催された女性国際戦犯法廷は、昭和天皇を弁護人なしに欠席裁判で裁き、「天皇裕仁は、共通起訴状中の人道に対する罪の訴因1と2である強姦と性奴隷制についての責任で有罪と認定する」判決を出した。
頭のおかしい人々がそういうイベントをやることは珍しくないが、これをETV特集で45分も放送したのだ。しかもこの番組のCPだった長井暁は、池田恵理子のダミーだった。主催者がNHKの番組をまるごと1本企画し、天皇に有罪を宣告する前代未聞の事件である。
著者は当時のプロデューサーだが、戦犯法廷の様子は3ページしか書いてない。彼はその法廷に行っていないのだ。ここで検事役をつとめたのは北朝鮮の工作員だった金虎男で、証人として「慰安婦を強姦した」と証言した金子安次は、南京大虐殺や731部隊でも「活躍」したと自称する、吉田清治と並んで有名な詐話師だった。
この番組が「改変」されたあと、主催者が訴訟を起こし、二審までは裁判所が「NHKは主催者の期待どおりの番組を放送しろ」という判決を出した。おまけに朝日新聞の本田雅和記者が、安倍晋三氏と中川昭一氏の「政治介入」を報じて、もっぱら「NHKと政権党の癒着」が論じられた。
しかし常識で考えればわかるように、こんなイベントを放送すること自体が常軌を逸している。安倍氏などがこれを批判したのは当然だ。NHKはこの番組の重大な事実誤認について、いまだに訂正も謝罪もしていない。籾井会長には当事者能力がないので、経営委員会が番組の内容をあらためて検証すべきだ。