中村修二さん、ノーベル賞おめでとうございます。よい子のみなさんもノーベル賞がもらえるように勉強しましょうね。でも中村さんの「青色LEDの利益を200億円よこせ」という話はおかしい。東京地裁の出した「600億円はらえ」という判決は、もっとおかしい。これはイノベーションが確率的な出来事だということを理解してないからです。
こういう例を考えてみましょう。ある会社が3億円の宝くじを100人の社員に1万円ずつ買わせました。そのうち1人が3億円当てたとすると、それは誰のものでしょうか。会社のものです。会社がリスクを負ってコストを払ったからです。資本主義とは、そういうものです。
中村さんの発明は、もちろん彼の努力によるものですが、会社が5億円の研究開発投資をしなければできなかった。青色LEDに投資した会社は、世界中にたくさんあったでしょうが、他はすべて失敗でした。ノーベル賞級の発明というのは宝くじみたいなもので、たくさんやってみるしかないのです。
あたった宝くじだけみると100円で3億円あたったようにみえますが、その賞金は他の人が3億円以上コストをかけたからはらえるのです。青色LEDの研究プロジェクトが世界に100あったとすると、そのコストは5億円ではなく、500億円です。よほど大きな利益がないと、失敗するリスクが大きすぎて投資できません。
宝くじの1等賞のように、非常に確率が低いが大きな出来事を「ブラックスワン」といいます。これはいいことも悪いこともあり、たとえば原発事故はマイナスの宝くじみたいなものです。これが起こったあとは、確率という考え方を知らない人は「今度おなじ事故が起こったら5兆円以上の損が出るから原発をすべて止めろ」といいます。
しかしこれは正確にいうと「今度おなじ事故が確率100%で起こったら」ということです。福島と同じ事故があす起こるのなら、すべての原発を止めたほうが得です。福井地裁の裁判官も「史上最大の地震が起こる確率はゼロではない」といって原発の運転を差し止めました。
でも事故の確率は、100%ではありません。福井地裁の論理でいうと、あなたが宝くじで3億円あたる確率はゼロでないので、仕事なんかやめて宝くじを買い続ければいい。そういうことをする人はいないでしょう。それは途中で、お金がなくなってしまうからです。
でも、お金を出すのが国だと、裁判官や朝日新聞は「原発事故(マイナスの宝くじ)を避けるためにはいくらお金を使ってもいい」といいます。おかげで日本は10兆円ぐらい燃料費をむだづかいして、景気があやしくなってきました。
確率というのは数学的な考え方ですから、ちょっとむずかしい。「降水確率50%」といっても、事後的には雨はふるかふらないかですが、それを事前の確率という数字におきかえ、傘をもっていくかどうか考えるのがリスク管理です。原発事故で人が死ぬ確率は、石炭火力の1%以下なのです。
特に政治家やマスコミや裁判官には、確率0と100%の間の出来事があるということも知らない人が多いので、確率の考え方は子供のころからおしえたほうがいいと思います。