ドワンゴ川上会長の「朝令暮改」経営術

新田 哲史

141213ニコキャス
どうも新田です。肩書きを捨てたら地獄な人生を送っております。
ところでアゴラ、BLOGOSには掲載してないんですが、私のブログで前回、ドワンゴの新サービス「ニコキャス」が選挙戦の最中にぎりぎり間に合ったことをお伝えしたばかり。いやはや、ビックリ。戦線投入から1週間も経たずサービス終了だそうです。

ドワンゴ、スマホ使った生中継サービス「ニコキャス」終了
KADOKAWA・DWANGO(角川ドワンゴ)傘下のドワンゴは15日、動画配信の新サービス「ニコキャス」を17日に終了すると発表した。スマートフォンのアプリ(応用ソフト)を使って無料でネット上に生中継できるサービスで、12日に始めたばかりだった。同社は「自信を持って開発したが、出すのが早すぎた」と説明しているが、ネット上では他社のサービスとの類似性を指摘する声が出ていた。(14年12月15日・日経電子版)

複数のドワンゴ関係者に聞いてみたところ、サービス終了の本当の理由は担当者レベルでしか把握してないらしく、本筋の話は、やまもといちろうさんの切込記事を切望いたしますが、統一地方選挙でのツールとして注目していたワタクシメは、ある社員に「(再リリースは)来年春には間に合いますかね?」と水を向けたところ、「できるのかな」と首をかしげておりました。利用者数が思ったほど伸びなかった説もあるんですが、小手先の軌道修正で済む話でないのは確かなようです。

◆ホリエモンの“見立て”は合理的だった
私も即日でダウンロードして使ってみたのですが、記事にもあるように「他社のサービスとの類似性」=「ツイキャス丸パクリやん」という印象は私自身も持ちました。しかし、それは必ずしも悪いことではないと思います。以前から堀江さんが「川上さんは本気でツイキャスを潰す気だ」と指摘していたように、まだ利用者が1000万人に到達する前のスタートアップ段階のうちに、規模で遥かに上回る上場企業のドワンゴさんが同じサービスをぶつけて市場奪取を一番の目的にするのは合理的でしょうね。
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実際、今年1月の都知事選、家入さんが去年くらいからニコ生を使わず、iPhone1台があれば好きな時間と場所で手軽に発信できる様を見て、公式チャンネルでは映像機器を一生懸命用意する必要のあるニコ生に「面倒さ」と「重厚感」を覚えました。私でなくても「モバイルシフトが進むほどPCがメインのニコ生やばくねー?」と思うわけです。もちろん川上さんも指を加えては見ていなかった。よく、リクルートさんが先行するベンチャーのサービスに類似サービスをぶつけて市場をかっさらう「黒船戦略」をお家芸にしておりますが、ドワンゴさんのニコキャス投入についてはそのパターンなのかな、と。28歳の開発担当者を意識高いNewspicksが取り上げる等の事前PRも奏功していまして、ツイキャスさん、どーなるのやら、とも感じました。

◆川上ドワンゴを彷彿させるあの会社
それにしても、数日で目玉サービスを終了させる川上さんの決断は逆にすごいと思います。「長い間、nicocasをご利用いただき本当にありがとうございました。サービスを開始したのがつい数日前のような気がしますが」で始まるお知らせ文にドワンゴ的なユーモアが味わい深くてクスッと微苦笑させられますが、行間ににじみ出る経営判断の思考回路は興味深い。そこいらのスタートアップやベンチャーならいざ知らず、会社のトップが「ニコ生以来の大型サービスになる」とまで豪語していた目玉サービスを一度外に出して、すぐに引っ込めるんですよ。上場して歌舞伎座を足元にオフィスを構え、角川と合併して、巨大メディア企業になっても「朝令暮改」を断行する。ドワンゴのスタートアップ精神は健在。一度始めた事業の「無謬性」にとらわれて引っ込みが付かない、役所や経団連系の大企業とは対照的です。

※盛田昭夫オフィシャルサイトより
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今のアップルのように世界的にイケてた頃のソニーでは、盛田昭夫さんも「朝令暮改がわが社のモットー」と言っていたようですしね。その後の継承者が優柔不断だからなかなか復活できていないわけですが。盛田体制の頃のソニーと川上体制のドワンゴ。やはり天才的創業者社長がノリに乗ってグリップを握っている間は、柔軟に英断を下せているってことなんでしょう。

とりあえず今後気になるのは、「出直しの時期」と「どのレベルでの出直しを目指している」のか。『失敗の本質』の愛読者あたりがよく言いそうですけど、「日本軍に緒戦で敗れた米軍はゲームのルールを変えて勝ちました」的な圧倒的イノベーションを目指しているのか、これはこれで興味津々と思いつつ、ツイキャスには生き残り策を練り直す時間ができたということでモバイル動画界隈がどうなるのか、来年も面白くなりそうです。ちなみに選挙で使ってみた身としては、アラサー~アラフォー向けのサービスが欲しいなと感じましたが。ではでは。

新田 哲史
Q branch
ソーシャルアナリスト/企業広報アドバイザー
個人ブログ