サービス産業化と都道府県制度のオワコン化の関係などについて --- 宇佐美 典也

アゴラ

JBPRESSさんに「過去に向かって歩き出した日本の地方政策」なる記事を寄稿させていただきました。

この記事は、2001年度から2010年度にかけての各都道府県の名目経済成長率を比較して機械的に経済成長率の高い順に各都道府県を「勝ち組」「現状維持」「負け組」の3つのグループに分けた以下の単純な図に基づく分析と、官僚時代の私の経験を元に書いた記事なのですが、地方政治に関しては10年前に危惧していた最悪シナリオが現実になりつつあるという印象を受けております。

地方経済

21世紀以降の日本国内の地域ごとの経済状況を大都市圏というアプローチでみると、首都圏が成長する一方、名古屋を中心とする東海経済圏は伸び悩み、大阪は「負け組」として沈み込むという具合になっております。大阪から「維新の会」という新勢力が生まれたのも偶然ではないということをデータは物語っております。これをもって首都圏一極集中という議論が為されることもあるわけですが、必ずしもそうではなく京都都市圏と福岡都市圏は好調を維持しており、すぐなくとも首都圏以外にも「元気な都市」というものは存在しております。

一方で東北ー北陸ー四国ー北海道の沈み込みは激しく、「地方経済」というものの崩落を感じさせてくれます。そういえばどこぞのプロブロガーが高知県に移住して「まだ東京で消耗しているの?」などと言っているのですが、この21世紀に入ってから高知の経済は20%近く収縮しており「高知の方がよっぽど消耗しとるわ」としか思えないわけです。地方に夢を見てはいけない。

こうした地方経済の沈み込みの反動として、地方政界から「地方は苦しい、中央が助けてくれ!」という声が生まれ、それに答える政策として「地方創生」ということが昨年来叫ばれるようになったわけですが、これは大変筋が悪い話と言わざるを得ないように感じています。小泉政権以前に先祖帰りして中央政界が地方自治体に多少の交付金や公共事業費をバラまいたところで、それは延命策に過ぎないわけで、現状の趨勢を覆す決定策にはなりません。

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(森川正之氏作成:http://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/08j008.htmlより)

というのも、地方経済の本当の敵は「首都圏」というわけではなくて「サービス産業化」という日本経済の産業構造自体の変化であります。この辺森川正之氏などが専門でありますが、上図などでしめされるようにサービス産業の生産性は人口密度に比例することが実証的に知られています。即ち人口密度が低いというだけで地方は競争上不利に陥ってしまい、都市圏は有利に繋がるということです。

中央が地方自治体に交付金をバラまいてテコ入れを図ったところで、このような立地要因上の不利は克服しようがないわけでして、域内に強力な製造業種を持たない地方自治体の経済は残念ながらシュリンクする運命にあります。

このように経済のサービス産業化を見据えた経済政策的観点から見た時に、やはり「都市圏」と「行政区域」を一致させなければならない、即ち「都道府県」という枠組みを「都市圏」で構成し直す、ということの必要性は10年前からして散々霞ヶ関界隈で語られて来たわけですが、一向にその実現に向けた手が打たれることは無く現状を迎え、地方政治の反動が起きているということなのだと思っております。

こういうことを話すと「では「都市」を持たない地方経済圏はどうすれば良いのか・見捨てるのか」という議論が必ず起きるのですが、サービス産業で勝ち目が無い以上第二次産業で勝負するしかないという話になります。そんなわけでパターナリズムの観点から都市圏への工場立地規制や地方圏への工場再配置政策というものは肯定されうるわけですが、小泉政権以降では「規制緩和」の旗印の下でパターナリズムは否定され、工場等制限法(都市圏への工場の立地規制)ー工場再配置促進法(工場移転の税制上の支援)、という2つの法律を廃止され、その結果としての現状があるわけです。

目の前に統一地方選が迫る以上「地方創生」という現状の自治体の延命措置の政治的な必要性はある程度認めざるを得ないと思うわけですが、やはり根本的な問題として「都道府県制度の見直し」と「工場再配置政策の本格的な復活」というものがもう少し骨太に議論されるべきなのではないかと個人的には思っております。個特に「工場等制限法」の廃止は失策だったのではないかと思っているところで、この点時代を巻き戻しつつ、地方分権と行政区分の見直しという時代を前に進める改革を上手くミックスして進めていく必要があるのではないかと思っております。

ではでは今回はこの辺で。


編集部より:このブログは「宇佐美典也のブログ」2015年1月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は宇佐美典也のブログをご覧ください。