原発を止めることで、毎日100億円の損が出ています。今まで3年半で約12兆円――といっても、金額が大きすぎて、よい子のみなさんにはわからないと思います。テレビでも、そういう計算のできない電波芸人が「損してない」といっているので、簡単な計算をしてみましょう。
発電コスト(円/kWh)出所:エネルギー・環境会議
この図は政府の計算した電源別のコストですが、このうち原発を運転するとあらたにかかる変動費は、燃料費1円(キロワットアワー当たり)と運転維持費3円で、合計4円です(核燃料サイクルを動かすと、もう1円かかります)。資本費や安全・環境経費は、運転してもしなくてもかかる固定費なので、再稼動とは関係ありません。
河野太郎さんや大島堅一さんは、これをごちゃごちゃにして「原発のコストは高いから再稼動するな」といっていますが、それはこれから建てるときのコストです。再稼動するかどうかを議論しているときに、もう建っている発電所の建設費用が高いか安いか議論してどうするんでしょうか。
原発の変動費は4円ですが、原発を止める代わりに動かしているLNG(液化天然ガス)火力は、図のように9.5円かかります。この差の5.5円が、原発を止めてLNGを輸入しているコストです。これが日本全体を合計すると、どれぐらいになるかは、LNGの輸入がいくら増えたかをみればわかります。
日本のLNG輸入額は、震災前より年間3.7兆円ふえました(1日100億円)。この額は固定費を引いた変動費の部分だけなので、これが原発を止めていることによる損害です。ただし震災前にくらべてドルが上がったので、円建ての価格が上がりました。このうち0.7兆円ぐらいは為替レートの影響です。
あとはLNGの価格(ドル建て)が震災前の2倍ぐらいに上がった影響もありますが、これは原発が止まってあわててスポットで買いに行ったためです。おかげで、原油価格が暴落しても、LNGの価格はほとんど下がっていません。つまりざっくりいって、毎年3兆円の損が出ているわけです。これが貿易赤字の最大の原因です。
震災から3年半たっても、原発は1基も動いていません。1番手の川内原発の審査は2基で2年もかかりそうなので、このペースだと全国48基の原発が動くには、あと20年以上かかります。諸葛宗男さんの計算では、2038年までかかると55兆円の損が出ます。
これが電力会社の赤字になるだけならいいのですが、これはみなさんの家の払う電気代の原価ですから、電気代も上がります。今は役所が原発が動いていることにして電気代をおさえていますが、そのうち電力会社がコスト増に耐えられなくなって、電気代が2倍以上になるでしょう。
3兆円というのは、消費税にすると1.5%ぐらいです。5000万世帯で割ると、1世帯あたり年間6万円。これは年収6000万円のお金持ちにとっては0.1%の小さな負担ですが、年収200万円の貧しい人にとっては3%の重い負担です。つまり電気代は、貧乏な人ほど損する逆進的な税金なのです。
このまま30年ほったらかしにすると、1世帯あたり100万円ぐらいの負担になります。国民がこういうコストを知った上で「金より命だから100万円ぐらいしょうがない」という判断をするなら問題ありません。
しかしこんな大事なことが、法律で何も決まっていません。菅首相が「お願い」して全国の原発を止めたまま、ほったらかしなのです。こういうコストを明らかにした上で、あらためて本当に原発を20年以上も止め続けるのかを国会で議論してはどうでしょうか。