“「学ぶ力」か「学力」か 滋賀県知事と県議、教育めぐり白熱”という京都新聞の記事がヤフートピックスにも選ばれネット上で話題になっている。これからの教育を考えるうえで重要な議論なので、少し考えてみたい。記事を一部抜粋すると以下の通り。
「学ぶ力」か「学力」か―。滋賀県の三日月大造知事と県議の一部で「ぶ」をめぐり意見のすれ違いが続いている。新年度からの教育政策で三日月知事が「学ぶ力」の重視を打ち出しているのに対し、一部の保守系県議らが学力テストの点数アップに直結する「学力」を前面に打ち出すよう求めているからだ。県は新年度予算案に「学ぶ力」向上に向けた新規事業を盛り込んだが、「『ぶ』は不要」とする県議らの理解を得られるか。県議会では教育観をめぐって議論が白熱しそうだ。
「小中学校生徒の学ぶ力、学ぶ力を向上させる」。2月上旬にあった予算案発表の会見で、三日月知事は2度「学ぶ力」を繰り返した。3人の子どもの父親でもあり、知事就任後、最も議論する時間が長かったと熟慮をにじませ、「テストの正答率で比べることを学力と呼ぶなら、学力を高めるために学ぶ力を高めようと考えた」と持論を述べた。
新年度予算案で知事が目玉事業とするのが「教科指導力ステップアッププロジェクト」。子どもの学ぶ意欲を高め、生きる力を育むのが最大の狙いだ。園児と小学1、2年生には達成感や喜びを持てるよう指導し、小3以上には学習でのつまずきを学校、地域、家庭が一体となり学び直しできる仕組みをつくる。2月上旬の県議会文教委員会でも、県教委が予算と連動する「学ぶ力向上滋賀プラン(仮称)」を示した。
しかし、県議からは「『学ぶ力』ではなく『学力』でいい」と厳しい批判が出た。背景には、滋賀県が全国学力テストで低迷を続けている実態がある。文教委員会では「(学テの)成績が下位だから県民はいらいらしている」と注文がついた。ある県議は「教師や周りの大人が本気になって取り組まないと意味がない。県民に分かりやすい名前の方がいい」と話す。
一見、どうでもよいような論争をしているようにも思えるが、実は重要な議論だ。「学ぶ力」と「学力」。本来は同じ意味を指すはずだが、「学力」の場合は「学力テスト」のみと紐付けて考えられることがしばしばある。一方で、おそらく三日月知事がこだわった「学ぶ力」というのは、学校の教科のみならず、あらゆる場面、あらゆる事柄から自らが主体的に学ぶ力であるのだと推測する。「学ぶ力」、つまり、物事への好奇心や探求欲を持ち、自ら学ぶ方法を身につければ、「学力」は自然とついてくる。
拙著『16倍速勉強法』では、「勉強の成果=地頭×戦略×時間×効率」という方程式を提示したが、「学ぶ力」を高めれば、読み書きそろばんといった基礎的な「地頭」力と、自らが学習目標に対して何をどのように取り組むべきかを考える「戦略」の要素を高めることにつながる。結果的に、どんな勉強や学力テストでも、成果を出す基礎力が身につくことになる。
私はかねてより、「教育」から「学び」の時代へとパラダイムシフトすると繰り返し強調しているが、これからの時代に重要になってくるのは自らが主体的に「学ぶ力」だ。技術革新に伴い社会の変化が速い時代だからこそ、教えられたことを覚えるだけでなく、どんな環境やどんな内容でも主体的に学べる力こそが重要なのだ。
もちろん、だからといって学力テストの結果を軽視してはならない。学力テストも学ぶ力を測定する一つの重要な指標である。この点が欠落してしまうと、「生きる力」という理想だけ追って基礎学力がおろそかになってしまった「ゆとり教育」の二の舞になる。学力テストも重要視しながらも、一時的な結果のみを追うのではなく、本質的な意味での「学ぶ力」がついているかを測るために、学びへの意欲、関心などを継続的にアンケート調査したり、読書量や授業での発表議論、部活動や課外活動も含めて考える必要がある。
「学ぶ力」か「学力」か。滋賀県議会の論争は、実は日本の教育と学びのあり方に重要な示唆が含まれているのではないだろうか。
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学びのエバンジェリスト
本山勝寛
http://d.hatena.ne.jp/theternal/
「学びの革命」をテーマに著作多数。国内外で社会変革を手掛けるアジア最大級のNGO日本財団で国際協力に従事、世界中を駆け回っている。ハーバード大学院国際教育政策専攻修士過程修了、東京大学工学部システム創成学科卒。1男2女のイクメン父として、独自の子育て論も展開。アゴラ/BLOGOSブロガー(月間20万PV)。著書『16倍速勉強法』『16倍速仕事術』(光文社)、『マンガ勉強法』(ソフトバンク)、『YouTube英語勉強法』(サンマーク出版)、『お金がなくても東大合格、英語がダメでもハーバード留学、僕の独学戦記』(ダイヤモンド社)など。