株価に見る中国の脆さ

世界の眼はNYのダウや東京の日経平均よりも上海の総合指数の動きに釘づけです。アメリカの経済はブレが少なく第2四半期GDPもしっかりした足取りで着地、安定感を増しています。日本も第1四半期の決算がピークを迎えますが、ファナックなど電子部品のメーカーにスマホショック的なところもありましたが全体像は相当好調とみてよいと思います。東電や航空会社、更には自動車メーカーの決算から内需、訪日、輸出と三拍子そろった状態になっています。

ところがその堅実な空模様の蚊帳の外に於かれているのが中国とそこにリンクしている諸国であります。

上海総合は高値からちょうど半値下げた3500ポイントで切り返し4000ポイントを奪取した後、政府の4500ポイントまで引き上げる目標に至らない状態で再び下げに転じました。27日の8%強の下げも強烈でしたが30日の取引終了直前での下げは嫌な形となってしまいました。

メディアのストーリーは政府の買い支えはいつまでもできるものではない、だから株価は下げるというトーンに読めます。中国の株式市場はNYや東京とは全く違う市場構造であるために今や、上海の株価がどれだけ下がろうが、上がろうが、世界の株式市場とは関係ないという見方すら出てきています。株式版デカップリングでしょうか?

しかし、そうとも言えません。日本でもバブルの時のあぶく銭は株と土地から生まれています。サラリーマンの給与が特別上がったわけではないし、ボーナスの振る舞いが特別よかったわけでもないでしょう。せいぜい、会社の経費でいつもよりちょっと飲み食いが出来たりゴルフに行けたぐらいでしょう。本当の泡は暴騰する株価と土地成金で生まれたもので一般の人はそのお相伴にあずかっていただけです。

上海の個人投資家がいくら含み損を抱えているかわかりません。ただ、個人投資家が8割で株価が上がってまた株を買うという投資家の心理を考えると多くの人が高値掴みの株価に苦しみ、その処理に頭を悩ましているでしょう。ただ、それより重要なのは損をしている、明日はもっと損をするかもしれないという心理状態は消費を極端に減退させます。

日産自動車の決算説明会で中国での自動車販売が悪化していることが強調されています。4-6月は持ちこたえたけど7月はもっと悪いというその言葉が市場を物語っています。フォルックスワーゲンが上半期の世界販売台数トップに躍り出ましたが私はトヨタが通期で巻き返す可能性は大いにあると見ています。それはVWが強みとしている中国市場が下半期に相当苦戦を強いられるとみているからです。

日本やアメリカのバブル景気の際の株高と今回の上海の株高の違いは景気なり不動産価格なりの経済的裏付けのあるなしがポイントではないでしょうか?不動産バブルが何時破裂してもおかしくないと言われ続けている中で一年前に突如起きた株価高騰であります。理由づけがほとんど出来ない株価でしたから落ち着くところに戻るのでしょうか。それが振出しの2000ポイントなのか、この景気の悪さを反映してもっと下げるのか、はたまたそれでも7%弱成長する国に敬意を表してもっと高いところで収まるのかでありますが、今後、論理的な株価分析をした西側諸国のアナリストの声が上海の投資家に聞こえて来ればそれが一つの指標になるかもしれません。

今日のブログのポイントはしかし、株価の話ではありません。一部の経済的に余裕ある人たちが倹約令の出ている状態の中でマネーゲームに興じたことの背景に私は興味があります。フランスのデザイナーズブランドは目立つから駄目、派手な社交も駄目、ならば「色がつかない」マネーならば大丈夫だろうと考えたのが中国人の心理ではないかと思うのです。つまり、じっとすることが出来ず、何かに抵抗し、新しい方法を見つけようとする国民のもがきのようなものを感じるのです。

これはとりもなおさず、政治が機能していないといってもよいのではないでしょうか?私は習近平体制は非常にもろくなってきているように感じます。最新のニュースでは「胡錦濤前政権で人民解放軍の制服組トップだった郭伯雄・元中央軍事委員会副主席を党籍剥奪処分にし、収賄容疑で軍事検察機関に送ると発表した。すでに汚職で摘発された故・徐才厚氏と共に、胡政権時の軍制服組トップが2人とも党籍剥奪となる異例の事態となった。」(日経 31日電子版)と言ったように粛清を進めるばかりで政府機能がマヒしつつあるように感じます。

強権を持ったトップの最大の弱点は情報が入らなかったり、加工された情報になるということです。いわゆる「裸の王様」です。習国家主席は身内にすらどれだけ胸襟を開けるのでしょうか?案件は山積どころか積みあがり過ぎて崩れてしまいそうです。それを習国家主席だけで支えようとしている風にしか見えません。

私の友人の上海人は「政府なんか信じてない。マネーだけよ。」と言い切ります。共産党独裁の中国のその影響力は以前ほどではありません。中流階級が増えた今、その威信は更に下がるのが世の定石であります。ならば、13億の民を擁する中国の経済力はそれまで世界の工場として培った高い体力が基礎代謝まで下がってしまうことを意味します。

折しもカナダの最大級の鉄鋼石会社のクレジットレーティングは先行きネガティブに落とされました。これが意味するのは中国の当面の回復は期待できないということなのでしょうか。その時一番影響を受けるのは案外、小国の韓国になるのかもしれません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 7月31日付より