夏の風物詩「24時間テレビ」がはじまります。昨年は瞬間最高視聴率41.9%(平均視聴率17.3%)を記録して、改めて番組の認知度の高さが明らかになりました。しかし、24時間テレビは出演者にギャラを支払っているため、この扱いをめぐって意見が二分されることが少なくありません。
●日本テレビは社会貢献をしている
芸能人は、フアンや支援者が多いためメディアへの影響力が強く、芸能人の存在によって多額の募金が集まるなら問題は無いという意見があります。写真週刊誌のFLASH(2013/8/13号)は、前年度の番組総製作費が4億2000万円で、CM収入の合計が22億2750万円だと報じています。これに募金を加算すれば、番組総収入は相当な額になります。さらにチャリティ番組であることから、スポンサーがつきやすいというメリットもあります。
アメリカの「Labor Day Telethon」は、1966年以降、アメリカ合衆国の労働者の日(Labor Day Telethon)に併せて毎年開催されているチャリティ番組です。元々は米国筋ジストロフィー協会が活動を広く理解してもらうために、俳優ジェリー・ルイスが発起人総合司会として開催するようになったものです。2011年に、ジェリー・ルイスが高齢により司会を退いていますが、2010年までは労働者の日の前日夜~当日夜にかけての概ね20時間以上に亘りラスベガスで開催され、著名人がギャラなしのボランティアとして出演し、コンサートやショーをおこなっていました。
日本テレビによれば24時間テレビの準備にかかる期間は準備期間を含めて約10ヶ月程度とのことです。10ヶ月のスタッフ人件費や諸経費は大変なものでしょう。そして、日本テレビの各番組や事業活動単位での総コストを算出してみたらよいでしょう。24時間テレビが収益性の高い番組であれば、相応の税金を支払わなくてはいけません。日本テレビは税金を払うことで社会貢献をおこなっていると考えることもできます。
「障害者に対する扱いがあまりに一面的」という意見があります。これまでも、津軽海峡縦断リレー、車椅子で琵琶湖一周、視覚障害者の富士登山、先天性四肢障害者のピアノ演奏など、趣向を凝らしていますが、理解しがたいという意見があることも事実です。ところが、番組の目的は障害者理解を深めることですから、これらの挑戦やチャレンジによって多くの人に感動や勇気を与えたり、理解促進が拡がるなら否定するものではありません。
●障害者理解の広がりと期待
私はアスカ王国という障害者支援の活動を約30年間続けています。設立が国際障害者年の1981年なので、今年で34年目の活動になります。私の父が橋本正氏(橋本龍太郎元総理ご母堂)と始めた活動ですが最初から関わっていたわけではありません。しかし、現在、ライフワークとして継続している状況を鑑みれば、障害者理解の良い機会だったと考えています。そして最も財産になったことは、障害者のお子様をもつご両親の貴重な意見を聞けたことです。
数年前にある政党が「わが国の伝統的子育てによって発達障害は予防、防止できるものであり、こうした子育ての知恵を学習する機会を親およびこれから親になる人に提供する」という条例案を提示しその後撤回したことがあります。先月には、ある内科医が「障害児の出産は親の責任」と発言しFacebookが炎上しました。同時期にハフィントンポストに掲載されたダウン症の娘をもつ、キャロライン氏によるメッセージにも注目が集まりました。「これが私の娘、ルイーズです。娘は生後4か月で、2本の腕、2本の足、2つの素晴らしいふっくらした頬、そして1つの余分な染色体があります」。キャロライン氏は「ダウン症」の子を可哀想だと決めつけることで、多くのダウン症を持つ親が苦しんでいるのだと訴えました。
障害者の親の気持ちは、実際に障害者をもつ立場にならないと理解できるものではありません。障害者を理解するうえで最も大切なことは周囲の正しい理解になります。障害といっても様々なタイプがあり成長の過程における苦労や大変さも様々です。だからこそ、障害の特性を正しく理解する必要性があります。その視点に鑑みれば、1回の放送で億単位の募金を集めて、40%以上の視聴率を集められる24時間テレビの存在は貴重です。さらに番組終了後には、賛否を含めて話題になりますから啓蒙や教育的効果も期待できます。
心身に障害をもつ人が社会参加を果たすためには、さまざまな「壁」があります。物理的な壁や制度上の壁は、政治や行政の努力で取り除くことができます。しかし偏見や差別など、社会に根付いている「心の壁」を取り除くためには、社会福祉の概念を根本的に見直す必要性があり、それは社会を変革するという時間のかかる課題です。
障害を持つ人たちが社会構成員の一員として、社会の恩恵を等しく受けることができるノーマライゼーションを実現するには、社会福祉や社会のあり方の概念を変革する途方も無い作業が必要になります。そこに生きる人の心が貧しい社会であっては、ノーマライゼーションを創造し実現することはできないからです。
●尾藤克之
ジャーナリスト/経営コンサルタント。代議士秘書、大手コンサルティング会社、IT系上場企業の役員等を経て現職。著書に『ドロのかぶり方』(マイナビ新書)、『キーパーソンを味方につける技術』(ダイヤモンド社)など。
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