「東芝問題」、次なる論点

本日「新たな社外取締役候補など新体制の概要を発表する」予定の東芝ですが現在「最終的な連結財務諸表及び財務諸表の確定に向け必要な作業を実施」中のようで、今月末に向け「過年度の決算訂正及び2014 年度の決算につき(中略)監査人である新日本有限責任監査法人が監査を行っている最中」のようです。


先月『「東芝問題」に対し公平公正を期する』(15年7月22日)というブログを書いた前日、「総額1500億円を超える利益操作に走った過去の社長3人と経営幹部は引責辞任した」わけですが、とりわけその後高まりを見せているのが会計監査人・新日本監査法人の責任精査の議論です。

一部で『東芝不正会計を見逃した新日本監査法人、金融庁が「業務停止命令」を検討か』(15年8月7日)という見出しの記事もありましたが、此の「監査法人の不祥事」としての側面に対する踏み込み不足が各所で指摘された「第三者委員会調査報告書」を受け、これまで様々な識者による色々な見方が数多く報じられてきました。

例えば此の類の問題に明るい弁護士の郷原信郎さんの次のコメント、「今回の問題は、すべてが日常的な一般的業務に関する会計処理。つまり監査法人がどのような評価をしたのが一番重要だが、そこが最初から調査の対象外で、そもそも何のための調査報告書なのだろうか」とか、「分かっていた話を報告書の体裁で出してきただけのようだ(中略)。監査法人がどのような判断をしたかが一番重要なのに、報告書には十分な批判や責任を追及をするだけの事実がない」等が、先月29日ロイターで記事化されていました。

また御自身のブログでは先月21日、「今回の問題の発端となった工事進行基準をめぐる不適切会計の問題に関しては、東芝とも関係の深い伝統企業IHIでも、2007年に、海外のプラント事業をめぐって今回と同様の問題が表面化し、300億円を超える過年度決算訂正に追い込まれ、有価証券報告書虚偽記載で課徴金納付命令を受けた。そのIHIの会計監査人も、新日本有限責任監査法人なのである(中略)。それと同じ監査法人が会計監査人を務める東芝において、IHIで過去に起きたのと殆ど同様の事態が発生しているのに、何ら気づかず問題も指摘できないなどということは私には理解できない」等々と述べられていました。

「東芝問題」では「不適切な会計処理方針を自ら決めた経営執行部の方が監査委員会の委員長に就任していた、という事情もあった」との指摘もありますが、何れにしろ「悪質な損失隠しなどの不正会計事件を起こしたオリンパス問題については、会計監査人の新日本監査法人と、その前任のあずさ監査法人(当時)に、適正な監査体制を行う体制を整えるため、金融庁が業務改善命令を発令した」わけで、今回金融庁が如何なる形で「監査法人の責任追及と現在の監査制度改善を求める」かは今後注視して行かねばと思っています。

更にもう少しだけ述べますと、昨日の日経新聞夕刊記事「東芝、前期最終赤字に、12年3月期も赤字に訂正」でも「証券取引等監視委員会や金融庁は、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)で東芝に課徴金納付を命じる見通し」と報じられていましたが、その額がIHIの過去最大額16億円と比して如何程か、またライブドア事件等と同様に経営陣等に刑事罰が下されるかは重要なポイントであります。

もう一つ大事なのは、上場維持問題です。“Too Big to Fail(大き過ぎて潰せない)”ということで法的整理を行わなかったが為その後深刻化し続けた東電破綻処理問題の如く東芝が「グループ売上高6兆5000億円超、従業員約20万人の日本を代表する大企業」であり、その上東芝の社長・会長を務め今も相談役である西室泰三氏という「東証トップだった人の古巣である東芝を切っては、東証のメンツにも関わる問題で(中略)、東芝を上場廃止にしたとなると、今度は西室氏が代表をしている日本郵政の上場にも影響が出ないとは言い切れ」ないという議論もされているようです。

「東芝問題」に関し日本取引所グループ(JPX)は、早々上場維持が当たり前であるかのように動いてきたわけですが、仮に東芝株が上場廃止を免れるならば、過去事例と照らし合わせて如何なる理由でそうなのか、どういう経緯・根拠で以てその是非が決せられたか、その判断の公平公正の所在は一体何処に求められるか等の類が、誰にも理解できるようJPXとして説明責任を負いきちっとした見解を出すべきでしょう。

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