「宗教的狂気」と考古学者の学者魂 --- 長谷川 良

2015年08月22日 14:35

シリアから悲しいニュースが続く。内戦勃発から4年が過ぎたが、シリアは主権国家の様相をもはや維持していない。今風にいえば、シリアは地図上から消滅してしまったようだ。アサド政権は国土の半分も管理できず、反体制派武装勢力、そしてイスラム教スンニ派過派テロ組織「イスラム国」(IS)らが国土を分割支配している。過去の内戦で約25万人のシリア人が犠牲となり、400万人が難民となったという。

ISの侵攻に脅威を感じたシリアの少数宗派キリスト信者たちは次々と国外に逃避し、同国ではキリスト信者がもはやいなくなったといわれているが、21日、同国 Karjatain にあった西暦4世紀ごろ建立された修道院 Mar Elian がイスラム国の武装勢力にブルドーザーで破壊されたというニュースが飛び込んできた。

シリアの砂漠に立つ同修道院はこれまで多くの紛争や戦闘を目撃してきたが、生き伸びてきた。しかし、ISが今月初め、Karjatain に侵攻すると2週間も経たずに、完全に破壊されてしまった。ISは修道院破壊の理由を、「同修道院には3世紀のキリスト教の殉教者聖人エリアンが祭られている。これは神の神性を蹂躙するものだ」と説明している。要するに、「偶像崇拝」というのだ。

ちなみに、同修道院はシリアのカトリック教徒にとって重要な巡礼地で、毎年9月3日に記念行事が開催され、数千人の信者たちが訪ねてきた。内戦勃発後は、5000人余りのイスラム教徒が同修道院内に避難してきた。同修道院の聖職者たちはいずれも行方不明となったという。

数日前、シリアのパルミラ(Palmyra)の遺跡管理元総責任者であった考古学者ハリド・アサド氏(Khaled Asaad、82)がISに公開斬首されたという悲報が届いたばかりだ。ハリド・アサド氏は世界遺産パルミラを50年余り管理してきた人物だ。ISが5月、パルミラに侵攻する直前、同氏は息子たちと重要遺産の一部をトラックで運び、移動させ、ISの破壊から防いだが、自身はISに拘束された。
英紙ガ―ディアンなどによると、ISは、パルミラに貴金属が保管されているとして、アサド氏にその保管先を白状するように脅迫したが、同氏は「貴金属などない」という一方、考古学上貴重な遺産が破壊されないため沈黙を続けたという。

同ニュースを読んで、蛮行を繰り返すISに怒りを感じる一方、ISの脅迫にもかかわらず、考古学者として世界遺産パルミラを守るために命を懸けた考古学者ハリド・アサド氏の“学者魂”に強く感動した。

ISはシリアだけではなく、イラク内の占領地でも世界的遺産を次々と破壊している。ISは2月、イラク北部のモスル博物館に収蔵されていた彫像を粉々に破壊し、古代ローマの主要都市ハトラでも破壊を繰り返してきた。独週刊誌シュピーゲル電子版は21日、ISの蛮行を「宗教的狂気」(Religioeser Wahn)と評している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年8月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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