ドナルド トランプ氏が金正恩氏を「彼は『頭がおかしい』か、そうでなければ『天才』だ」と述べたそうですが、同じ言葉はトランプ氏にも返したいと思う人もいるでしょう。多分、トランプ氏は天才の可能性が高いのですが。
これだけ好き放題、言いたい放題の著名人も久しぶりなのですが、そのトランプ氏にアメリカの視線がこれほどまでに集まるのは彼の次の発言にどんな爆弾があるのか、聞いてみたいという単なるゴールデンアワーのお茶の間劇場か、言い続けることによってアメリカ人のマインドに少しずつ影響を及ぼす悪い薬なのか、ここが最大の焦点であります。
今の時点で彼が大統領になることはないと誰もが信じています。しかし、ジェブ ブッシュはつまんない、という声があちらこちらから聞こえてくるのも確かですし、ヒラリー クリントンもメール事件から始まり、共和党の最大の攻撃武器であるベンガジ領事館事件(ヒラリーが国防長官時代の2012年にベンガジでアメリカの大使他4名が殺された事件の責任問題)まで叩けばホコリの山ですので今の時点で誰が本命かさっぱりわからないのであります。
今後もトランプ氏は吠え続けるのでしょうが、そのポイントは過激ながらもアメリカ人がそれなりに気にしていたことばかりであります。例えば韓国を守る米軍の意味はない、と斬っていますが、その理由が見返りがない、であります。韓国側はもちろん反発していますが、ビジネスマンが大所高所に立ってみればそのように見えるのでしょう。同様のことは日本に対しても発言しています。
トランプ氏の気持を勝手に推測するならば「今や、共産主義なんて拡大の余地はなく、既に終わった思想なのにそんなものの為に多数のアメリカ兵をなぜ投入しなければならないだ、仮に今、共産主義が再び跋扈してきてもそんなもの、俺様のビジネスディールでイチコロにしてやる」ぐらいのものなのでしょう。
オバマ大統領の肝いり政策であるオバマケアも「俺が大統領になったらすぐ止める」とし、「俺にはもっとすごい案がある」と言っています。具体的にはその内容は明かしていませんし、本当に案があるのか知りませんが、全米の保険制度という仕組みそのものをなくしてしまう発想の大転換はあり得ると思います。
トランプ氏に皆、釘づけなのは彼の着想があまりにも斬新であり、アメリカのストレス発散以外の何ものでもないのであります。
80年代前半、フォード社長から瀕死のクライスラー社長となったリー アイアコッカ氏は当時のレーガン大統領からの要請もあり、大統領選出馬のうわさがありました。国民から圧倒的な期待を集めたその理由は国民が誰を信じて良いか不信に陥っている中、アイアコッカ氏が語り掛け、信じさせ、実行したからである(「アイアコッカ」より)とされます。(彼は出馬しませんでした。)それを現代に当てはめればトランプ氏の人気を作ったのは民主、共和の政治そのものであると言えるのです。
私としてはこのユニークなキャラクターは生かしたまま、氏が第三極として出馬したらよいと思っています。大統領になると共和党だろうが民主党だろうが議員を辞めて大統領に就任します。オバマ大統領も民主党議員ではありません。ですからトランプ氏が第三極として大統領になる可能性は全く持って何の不都合もありません。
但し、困るのは民主党も共和党もそっぽを向くかもしれない点であります。そうなれば大統領就任早々レームダックが4年続くようなもので国民は議会を選ぶのか、国民が支持した大統領を選ぶのか、で大きな議論を巻き起こすでしょう。しかし、今のアメリカにはそれぐらいのショック療法が必要かもしれません。
長年見続けてきたアメリカは明らかに老化現象が見られます。それはかつてのよき時代のアメリカを知り過ぎ、浸り過ぎ、懐古しすぎているからです。今やその時代ではないということをすべてのアメリカ人が悟るには衝撃的な国家を二分するぐらいの大論争を繰り広げるべきなのです。
ところで私はアメリカを舞台にこの話を展開していますが、同じことは日本にも言えます。有権者の多数を占める高齢者を守るばかりの変れない政策を続けず、東大卒の官僚が幅を利かせるばかりではなく、論争が出来ず事前の想定問答集通りの国会答弁ではない新しい国家を築く刺激が必要なのです。
そういう点からは私はドナルド トランプ氏の放言はもう少し聞いてみたいと思っています。そして、アメリカ国民がこれをベースにどんな刺激を受け、共和党がどういう対策を取るか見たいと思っています。仮に「常識外れの論外な男」として葬り去る姿勢ならばむしろ、共和党が葬り去られなくてはいけないでしょう。それこそ二大政党時代の終焉であります。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 8月28日付より