クラウドからAIへ --- 中村 伊知哉

クラウドからAIへ

小林雅一さん「クラウドからAIへ」読みました。
“クラウド・コンピューティングの次に来るキー・テクノロジーは、実はビッグデータというよりAI技術”とする本書を今から2年前にまとめていた力量はさすがです。

◯AI開発はアカデミズムから企業主導になった。Apple、Googleなど企業が多額の投資。スポンサー頼みでなく、自立しているとの指摘。

ITが30~20年前にたどった段階=メッカが東海岸(軍・MIT)から西海岸(シリコンバレー)に移った段階と同じですね。
ぼくがいた90s末のMITメディアラボは、AIよりUIにシフトしていました。当時ネットは西海岸が主導していました。AI復活も西海岸から。
SiriはDARPA 国防高等研究計画局の資金でSRIが開発。
ただしルンバのiRobotはMITのロドニー・ブルックスらが設立したんですよね。

◯AppleはSiri、Googleはセマンティック検索、フェイスブックはグラフ検索。AIを武器に、スマホと人とのインタフェースを押さえ、ビッグデータを取る、という戦略だとの指摘。

なるほど、わかりやすい。

◯1956年ダートマス会議からのAIの春、70年代AIの冬、80年代の復活と、再び冬。そしてようやく春。80年代は日本でも第5世代コンピュータの失敗後、長く冬でした。

当時近くにいたぼくのメモ「30年たって実現した自動翻訳電話
長い冬からAIが復活したのは、高齢化が自動運転車を促すなど社会変化が技術を必要としている側面と、ビッグデータの争奪戦というビジネス面とがあります。
もちろんその背後には、この20年のコンピュータとネットの大衆化があるのですが。

◯AI研究は3つの学派。1)古典的なルール・ベース派、2)勢いを増す統計・確率派、3)期待されるディープラーニング派。

2012年、GoogleとSUの共同チームによるニューラルネットワークがYouTube上の動画からネコの概念を獲得したというニュースは、ディープラーニングの名を広めましたね。

◯自動運転車は、レーダー、カメラ、センサーより、背後にある知性=ソフトウェアがカギを握る。経路の算出、行動計画、位置・速度の把握、対向車等とのコミュニケーションが重要。

クルマがスマホになるということ。

◯2012年米自動車工業会調査では、72%のドライバーが自動運転車にネガティブで、安全性に懸念を示す。しかし開発側の掲げるメリットも安全性。

機械は危ないという見方と、人はミスをして危ないという見方が対立しているのですね。

◯金融市場ではヘッジファンド等が金融工学を駆使したAIロボットが導入され、取引全体の7割をボットが行っている。

アルゴリズムが世界を支配する」にもそうした記述がありました。
 

◯リーマンショック後、米国は景気回復すれども雇用は増えなていない。労働者・中間管理者の仕事を機械が奪っている。

機械との競争」にもそうした記述がありました。
 

◯米国はAIを積んだ新型ロボットを工場に投入し、海外流出した製造業を国内回帰させる戦略。しかし回帰しても仕事はロボットが行う。

人の新しい仕事を生む戦略はどう立てたらいいでしょう。そこが課題。

3年前、小林さんの「HTML5は日本企業を復活させるか?」を取り上げたことがあります。そこからシーンが様変わりしたのですが、さて、今回、日本企業はどうします?
 


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2015年10月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。