株式市場には期待がかかる掉尾の一振

岡本 裕明

掉尾の一振(とうびのいっしん)は株式用語ですのでご存じない方も多いでしょう。「掉尾とは『物事が最後になって勢いの盛んになること』、一振とは『きっぱりととり払うこと』を意味することから、物事の最終局面で勢いを増すといったニュアンス」(金融経済用語集)で株価が年末に向かってぐいと上がることを言います。市場関係者はクリスマス前ぐらいから盛んにこれをはやし立てる、というのが恒例の行事であります。

さて、今年の日本の株式市場にはこの「掉尾の一振」は期待できるのでしょうか?

個人的にはありそうだ、と考えています。

これから3週間の間の最大のイベントは何といっても12月16日のアメリカFRBであります。ここで利上げを決定するかどうか注目されていますが、少なくともその下地は出来ており、金融市場はそれを読み込んでいます。よって、例えば利上げを決定したから急に円安になるとか株が下がるという状況にはなく、まずはようやくこの中途半端であやふやで蛇の生殺し状態から放たれるという「開放感」が生まれるとみています。

次に日本の株式市場のファンダメンタルズが比較的良好で2016年度も好調な企業決算が期待できそうだという雰囲気があります。更には甘利経済産業大臣が発表前にぽろっと自説を述べてしまったようですが、7-9月のGDPが上方修正され、年1.0%、前期比0.3%増となり、技術的なリセッション入りが消えました。これは、一部のアナリストがマイナス成長もありうるとみていただけにある意味、ポジティブサプライズだと言ってもよいでしょう。

東京市場を見ているとここにきて大型株から新興市場へ資金が回り始めており、株価が大きく跳ね上がる材料株が再び乱舞する状態になってきました。個人投資家は新興市場が活況を呈するとその売買が一気に活発となります。かつてミクシィが爆揚げした際、市場は大いに賑わったのですが、それは値動きが荒いことで「当てれば一攫千金」的な要素もあります。例えば東証一部の大型株ですと個人投資家の力量では株価はてこでも動きません。多くの海外マネーと機関投資家はプロ中のプロですから個人投資家の持つ情報や分析能力では到底追いつけないのです。また、プログラム売買をするにもほんのわずかな利幅でも株数が大きく、回数をこなせる大口投資家にはなかなか勝てません。

個別の材料は豊富でしょう。先日、日経新聞に一面広告を打ったミドリムシから航空燃料の実用化を達したユーグレナは目を引きました。あるいは液晶から有機ELという流れでその関連銘柄も乱舞しています。フィンテックもこれから注目される技術がまだまだ出てきそうです。その他IT関連も含め、日本銘柄には材料が多く、特に最近は新興市場の銘柄にあっと驚くような発表をする企業が多いことは特筆すべきでしょう。正にインカムゲインの一部上場銘柄と成長の新興市場の棲み分けがはっきりしてきたようです。

よって新興市場に資金が回るということは個人投資家が元気を出すという意味でポジティブではないでしょうか?また、ブルームバーグによるとアノマリー的には日本株の12月のパフォーマンスは3.7%と他の先進国を圧倒しており、勝率も過去10年で8勝2敗と相当良好な数字が出ています。アノマリーとは論理的に説明できない事象とされますが、個人的見解としては日本人にとって12月とは一年の締めっくくりであり、終わりを盛り上げることで来年にその勢いを繋がるという信仰的な発想があろうかと思います。年末に皆、忙しく動き回るのも今年中に片づけるという一種の「背伸び」があるためで株式市場でも今年最後の頑張りをしようとという動きに繋がるのではないでしょうか?

世界がテロなどで不安感が台頭する中、地政学的に日本はそのリスクが相対的に少ないとされていることもプラス材料でしょう。そういえば、日経に日本企業の生産拠点が中国偏重からそのウエイトを減らしつつあるとし、一部は他の国に、一部は日本への回帰とありました。ひとつには中国の生産性を加味した人件費が既に日本を上回っているということのようです。あれだけ中国に力を入れていたユニクロもいつの間にか生産のウェイトは下げていたようです。

大局的に日本はまだまだ伸びる余地はあると考えています。掉尾の一振ならず、新年にかけてもよい展開を期待したいものです。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 12月8日付より