「中央省庁の移転」考

若井 朝彦

京都には文化財が多い。多いといってもそれは建造物のことで、文化財総体では東京ほどでもないだろうが、ともかくそういう理由で、例の「中央省庁の移転」では「文化庁は京都に」、と府市が合作中である。最近、これにも関係して文科大臣の来京視察があったばかり。だがその道中の案内では、ものの見事にスベってしまったらしい。尾ヒレこそついていないようだが、新聞が面白おかしく料理していた。

もともと文化庁が激しく嫌がっているわけで、この結末も、大臣が東京を出発するときには、誰かによってすでに決められていたもののような気がしてならない。

さて、文化庁といっても、国民国益にとって最大の仕事は、いまや著作権や知財である。その外国との攻防戦、国内の調整を、空港も大使館も衆議院も参議院もない京都でできるわけがない。

京都市議会の11月例会でも「移転促進」決議が最終日に提出されて可決はされたが、全会一致とはならなかった。

ただでさえ、京都は文化財を人質にとって交渉している、と思われているわけで、不同意があったことには正直ほっとした。こんなことで一丸となっているようでは恥ずかしい。もっともこの反対行動も、迫る選挙があってのことだったのかもしれない。

その文化庁も、年中行事としてのニュース種を持っていて、夏すぎごろに、全国紙のいい場所を貰える日がある。

『国語に関する世論調査』の発表である。目次からその項目をざっとあたると、

・人が最も読書すべき時期はいつ頃だと考えるか(H25)
・今の国語は乱れていると思うか(H26)
・ふだん、手書きで文字を書く方か(H24)
・日本人の日本語能力が低下しているという意見について、どう思うか(H23)

という具合。設問というよりもほぼ誘導訊問で、いかにも(週に2回以上発行される)新聞の読者層の受けを狙った項目が目立つ。担当は文化庁文化部国語課である。そんな課があったんかいな、といった感じだが、文化庁もこの国語課なら手放してくれるのではあるまいか。

『今年の漢字』が、年末に清水寺で発表されるのと同じように、この手の発表なら、京都でやってもどこでやってもぜんぜん困らない。調査も委託事業であるし、その内容にも頓珍漢なものも混じるし、公表はPDFであるのだから。夏と冬でいい一対になりそうだ。府と市も、この程度の「なんちゃって移転」で満足すべきであろう。

しかしどうして省庁の移転は国内、なのだろうか。

観光庁は北海道ではなくて出発国の北京に。消費者庁は徳島ではなくて消費財生産国のハノイに。文化庁は京都にではなくて、不老不死のネズミの住むというカリフォルニアに。防衛省は・・・・・・

同じ移転を玩ぶにしても、ほとんど「移転移転詐欺」の国内論議よりも、虚構新聞(本社=大津市・発行所=滋賀、東京、ニューヨーク、ロンドン)ばりの『空想力』で突飛なプランをあれこれ検討した方が、役所の本質が見えてくるかもしれない。

 2015/12/20
 若井 朝彦(書籍編集)

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