アメリカの対中国強硬姿勢が可能になった背景とは?

2015年12月30日 05:30

現代は中国と関係ないようなテーマで何か考えていてもあまりに巨大になった中国のことがどうしても視界に入ってきてしまう時代になっています。

そして中国の場合、普通の国なら「経済」と「国家」の話をすれば足りるところを、さらに「権力闘争」という視点を追加することが必要で、その第3の視点を追加することで一気に物事が深く見えるようになってくる・・・という話を前回しました

今回は、最近米国が中国に対して以前に較べて強硬姿勢が取れるようになった理由も、実は中国国内の権力闘争の結果起きている潮目の変化によるもので、その変化こそが、ここ数年の日米関係、日中・日韓関係をどうしていくかを考える上でのカギとなるのだという話をします。

2・一枚岩でなくなった中国を、適切に「導く」関係構築を

我々は中国で何があってもあんまり驚きませんし、中国人自身も「自分でネタにして笑う」ところがあります。何が爆発しても「またか」って感じですし、ワカメとして売っていたのが実はビニールだったり、コメだと思って半年流通してたのが紙だった など、我々の想像を何倍も超えてきてくれるエンターテイメント性を持っているところがあります。

福島さんの本を読んでいてまず驚くのは、中国の権力闘争の激しさです。なんというか、日本だったら関ヶ原の戦い前に徳川家康が色んな武将を東軍に引き入れようと画策しているシーン・・・みたいなのが、21世紀の現代なのに「常に」ある感じです。

汚職も桁違いで、日本だと数億円横領した官僚がいたら「凄い巨額」って感じですが、中国で権力者が捕まったら「数千億円から兆円単位」の資産があるのが当たり前で、一個の汚職で数百億円横領することも珍しくないようです。ある権力者に取り入るためにその権力者の娘さんの誕生日に、数億円入った口座に紐付いた銀聯カード(デビットカード)をプレゼントしたとかいう話があるぐらいで、まさに文字通り「数億円なんてガキの小遣いにしかならねえ」という世界

勝てばそれだけの役得があり、負けたら命も危ない・・・となれば人間必死になります。

 一個一個の事件や誰それが何派でこの時に失脚したみたいな話を追っていくのは、中国に詳しくない人にとっては結構シンドいことですが、福島さんの本は非常に「俯瞰の見通し」が通史的に見えやすいので、読めば「習近平がなぜ突然トップに立ったのか」がわかります。

物凄く単純化すると、中国には3つの派閥があるようです。

・太子党(共産党の元勲の息子たち・・・現国家主席の習近平氏はコレ)

・共青団(共産党青年団という共産党の若手抜擢のためのエリート組織。前国家主席の胡錦濤氏はコレ)

・上海閥(上記二者とは距離がある上海地盤の利権集団。前前国家主席の江沢民氏はコレ)

勿論この人は上海関係だけど太子党でもあるとか、色々境界は重なっているし個人個人で色はあるわけですが、ざっくり言うと「太子党」が「毛沢東と一緒に革命に参加した両親の息子」であることをベースとして、「世襲」的な感覚で地位を保持しているのに対して、共青団派は別にイイトコの出身じゃないけど勉強ができたり色々優秀だったりという感じで取り立てられたエリート官僚集団なわけですね。上海閥は、少し「政治」とは距離を置いてとにかく利権を固めてカネ儲けたい人たち・・・という感じ?

この三派の権力争いの詳細は、福島さんのの本を読んでもらうとして、予備知識がないあなたでも、この3派のキャラクターから言って、「アメリカ含めた国際社会」と「うまくやれそう」なのはどれだと思いますか?

まず、一番難しそうなのが「太子党」ですよね。「世襲貴族たち」はいかにも「グローバル」と相性が悪そうです。

一方、「カネカネカネ、カネだけが満足感よォ!」の上海閥と「グローバル」は、ある意味結構仲良くやれそうな感じがしますね?儲かりゃいいんだよぉ、細けえこたぁいいんだよぉ・・・で通じる範囲ではうまくやれそうです。

また、「お勉強ができて取り立てられてきたエリート官僚」さんたちは、いかにも「話がわかる」感じがします。こちらも、それなりに「グローバル」と相性が良さそうです。

実際、上海閥の江沢民時代、共青団の胡錦濤時代、中国は今ほど国際的に強硬ではなかったですし、米中関係もかなり良好な時期が多かったです。

一方、2013年に太子党の習近平になってから、政治・経済において強硬な路線を推し進めた結果、アメリカとの対立が決定的になり、今やかなり四面楚歌な状況になってきているところがあります。

詳細は福島さんの本を読んで欲しいのですが、それまで無名だった習近平がいきなり主席に選ばれたのは、共青団派と上海閥との間の権力闘争が激しくて、お互い自派のエースを後継者に推すことが難しくなった結果、上海閥とも少し関係があり、それほど「野心家」とは思われていなかった習近平に、「まああいつならうまく操れるだろう」ぐらいな感じでお鉢が回ってきたそうです。

つまり、共青団と上海閥の間の争いの間のエアポケットに転がり込んで、漁夫の利を得た形でトップに立ったわけですね。

しかし、その後習近平はなりふり構わぬ権力闘争をしかけ、あるレベル以上に出世した共産党幹部は訴追されないという前例を破ってバンバン上海閥の有力者を摘発、一時は盤石の独裁政権を形成するのか?という状況にもなりつつあったようです。

この、「強引な権力掌握の闘争」の結果が、先ほど書いた米中関係の潮目の変化に繋がってくるんですね。それが「A 経済」「B 国家」だけでなく「C 権力闘争」の視点を導入することで見えてくる景色です。

状況をまとめると以下の絵のようになります。

習近平とオバマサイズ調整版

習近平のなりふり構わない権力闘争によって、追い詰められた政敵が、「アメリカを抱き込んで習近平政権に対抗しようとしている」状況になりつつある・・・・そうです。 

 先ほど書いたように、太子党の習近平に追いつめられつつある上海閥にしろ共青団にしろ、本来「アメリカとの価値観共有」がそれほど難しくない集団です。

彼らが習近平の権力闘争で「汚職摘発」を名目にバンバン投獄されたり「なんだかよくわからないけど突然死んだらしい」というニュースが流れたり(怖い・・・)すると、春秋戦国時代から数千年の歴史を持つ政治謀略の国、孫子の兵法の国の人間はどうするか?

答 アメリカに対して、「ヤクザな習近平より、俺らが中国のボスになった方が色々うまくいくぜとアピールする」

こうなります。

アメリカは”民主主義国家” ですから、中国側が一枚岩でまとまって、唸るチャイナマネーでロビー活動しまくっていれば、なかなか中国に対してキビシイ態度を取るような動きは政策化されていきません。

しかし、いざ習近平派がバンバン政敵を追い詰めていき、ある者は投獄され、ある者は消され、ある者は必死に外国に逃れ・・・となってくると、数千億円単位で蓄財してることも珍しくない中国の権力者のうちのある部分が、必死にアメリカを炊きつけるようになります。 (スパイっぽい話では、習近平政権側の隠したいスキャンダル情報なんかをアメリカ大使館に持ち込んで亡命したり、昔はアメリカはそういうのを受け付けなかったが最近は積極的に利用しようという態度だったり・・・ということもあるらしい)

 その結果が、最近の「米中関係の変化」だし、その結果玉突き的に押し出されるように、日米・日韓・日中関係も、好転の兆しをそれぞれ見せ始めているというわけです。

なんか・・・経済と国家の話だけでは見えてこなかった「大きな連動性」が見えてきた感じが、しませんか?

実際に、今「習近平」がどれくらいの権力を持っているのか・・・は、色んなチャイナウォッチャーによって言うことがマチマチな状況です。

ただ言えるのは、(いわゆる”メタ分析”的な話ですが)たった半年前には習近平が盤石だという人の数はもっと多かった印象ですが、今はかなり「習近平危なくなってるんじゃないか」という人の数が増えてきた印象です。

中でも一番習近平にキビシイ見方としているのは”中国から帰化した日本人”の石平氏で、タイトルずばりの

amzn.to

こんな本を書いています。

この本はこのブログを書く直前に見つけてさっきキンドルで読んだんですが、大枠は同じですが状況認識が多少福島さんの本とは違うところもあるようです。

石平さんは、子供の頃近所のおばあさんが文化大革命の混乱で処刑されるのを見たり、北京大学を出たエリートでありながら日本留学中に天安門事件の報を聞いて帰国を断念し日本に帰化することを選んだり・・・というなかなか凄い経歴の方です。

国外に出てしまった事を除けばある意味で「共青団」に最も近い生い立ちと言えそうで、そういうところの心情的な結びつきが影響している部分もあるかもしれませんが、石平さんの見立てでは、かなり共青団派が実はかなり「根」を張っていて、今の経済混乱を習近平派に押し付けて、いずれ次のタイミングで一気に権力掌握を目指している状況にあるとか。(これがどれほど真実かはわかりませんが、このポジションに何人共青団派がいてまだ何歳だから何年後にはこういう席次のラインナップになる・・・というような分析はかなり説得力がありました。詳細は石平さんの本でどうぞ)

習近平は上海閥つぶしの時には共青団と協力したが、今度は矛先を共青団に向けたために、共青団派と上海閥とアメリカの「vs習近平」的協力関係が生まれてしまい、逆に追い込まれるようになった・・・という見方ですね。

なんか魏呉蜀と諸葛亮が昨日の敵は今日の友的に争う三国志の話をしているような感じですが、しかし「そのレベルの本能」がまざまざとダイナミックに動いているのが、世界第二位の経済大国の実情というわけなんですね。

では次は、「こういう状況分析」の上で、我々はどう彼らとつきあっていくべきなのか・・・を考えてみます。

アゴラでは分割掲載されているので、この詳しい話についての続きの記事まで 一気読みしたい方は私のブログでどうぞ。→コチラ

倉本圭造
経済思想家・経営コンサルタント
公式ウェブサイト
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(当記事の絵や図は、ネットでの再利用自由です。議論のネタにしていただければと思います)

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