携帯料金値下げ騒動が終わりましたね

 --- 中村 伊知哉

2016年01月15日 12:00

携帯電話料金の引下げを巡る総務省の議論が年末に終了した模様で。ぼくは4点を感じました。

1) 政治の鶴の一声が10兆円市場の構造を左右し得ることを改めて示した。
2) 規制緩和30年の蓄積は安易な規制介入を許さず、行政も自制的だった。
3) 今回の結果が通信の産業と消費者にどう作用するかは今後の注視が重要。
4) MVNO活性化など競争環境整備はまだ途上であり、本丸の政策展開は持ち越し。

昔このあたり役所で担当していたんですが、今はすっかり門外漢で、関連の会議にも参加していません。今回の騒動の途中、現役プロ官僚に「どうすんの?」って聞いたことはあるけど、向こうからアドバイスを求められることはありません。でも業界からは「どういうこと?」という質問も来るので、門外漢としての感想を書いておきます。

本件は料金政策という通信政策の本丸であり、プロの領域。ぼくはアマの官邸が介入したのをどう収めるのかな、という観点で眺めていました。その点、総務省は大人になったなぁというのが感想です。

今の総務省トップは通信自由化・電電民営化を断行したメンバーです。規制緩和や制度変更のリアリティを知り抜いていて、安定感があります。むしろ、この議論に引っ張りだされたタスクフォースの新美座長や業界のかたがたのほうが大変だったんじゃないですかね。

発端は官邸。2015年9月、安倍総理が高市総務大臣に携帯電話料金の引き下げを指示。これに対し総務省は「ICTサービス安心・安全研究会」の下にタスクフォースを設置し、10月から12月まで5回開催して結論へ。審議会等ではない軽いフォーメーションで、年内というスピード感でサクッと終えました。

総理指示の理由は、携帯電話の家計に占める割合が上昇していることでした。しかし日本の料金は米英などと比べると安い。映画やゲームなどコンテンツ利用がスマホから行われて、携帯支出が増加するのは当然。結果、携帯料金が下がり通信業界が冷えることに対する逆アベノミクス効果の方が心配。政治パフォーマンスにしてもスジ悪の指示だとぼくは感じました。

しかも、通信自由化30年の節目に出された指示です。通信政策は規制緩和優等生として、参入規制、外資規制、料金規制をいち早く撤廃してきた。それが通信のインフラ整備、産業と利用の活性化をもたらした。料金への再介入はそれに逆行する政策であり、思いつきでできる仕事ではありません。

だから、もし昔ぼくがこれを担当させられたら、「官邸は何言ってるんだ」とばかり、反論ペーパーとか作ってたんじゃないかな。でも今回、総務省はそんなことはせず、すぐにフォーメーション組んで、騒ぎを落ち着かせるべく議論し、それなりの結論を得たと考えます。

さて、総務省会議では、料金を下げて家計支出を抑えるというより、ユーザー間の料金の公平性を求める議論になりました。1)ライトユーザー向け料金プランを作ること、2)端末販売を適正化すること、3)MVNOの低廉化・多様化を通じた競争促進の3点が結論となりました。

1)料金プラン作りは業界への「要請」。2)端末販売も法規制などが俎上に上ったものの、ガイドラインでの要請に落ち着きそうです。このあたりは、業界ともすりあわせた上で、ハレーションの起きない決着が図られたと見ます。

ただし、この部分は、今回の決着で市場がどう動くのか不透明であり、ひとまずは市場を監視する、という措置でいいんでしょう。

3)MVNOを通じた競争促進は従来から取り組んでいる政策で、これを進めるというのが総務省としての本丸。ここは道半ばであり、今後も力を入れるべき分野。総務省としてはここを強調するんでしょう。

こういうのって、政治の圧力、キャリアの立場、MVNO等のビジネス、利用者の利害など、損得勘定が渦巻き、政策の経緯や学術的な正当性などもあって、満点の解答はありません。その中でどう収めるか、がプロに問われる。ぼくは及第点をつけます。

裏側では、官邸対策、与党対策、業界対策、マスコミ対策、学界対策などなど、オモテに出ていない色んな動きがあった、いや、今もあるでしょう。官邸指示で始まった騒動を、次の行政につなげようとしているんじゃないかな。官僚諸君は。

逆に見れば、首相官邸は、1円もコストをかけず、一声で行政を動かし、10兆円業界をあわてさせ、利用者に値下げを期待させ、とりあえず早期に結論を得ました。この政権は、大したものだと思います。安保法、首相談話、TPP、軽減税率、日韓合意。官邸一強の年でしたね。

正直この件は、ぼくは現役官僚や通信キャリアなどと深い議論をしておらず外野からの感想なので、改めて認識を聞いてこようと思います。  

てことでまた。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年1月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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