「同一労働・同一賃金」の実現は120%不可能である

2016年02月16日 06:00
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「同一労働・同一賃金」の議論が熱を帯びています。民主党の「同一労働・同一賃金法案」の提出要請に、安倍首相も意欲を示しています。しかし制度の実現は実質不可能でしょう。

まず、これらの報道を率先すべきメディアが「同一労働・同一賃金法案」についてあまり触れていません。多くのメディアにとって「同一労働・同一賃金」の報道は諸刃の剣だからです。さらには人事制度上の様々な要件があり困難であるためです。

●すべての人事異動には目的がある

人事異動の目的は次の3パターンに集約されます。「栄転による異動」「経験を積ませる異動」「左遷・リストラ」です。日本型人事では、スペシャリストよりもゼネラリストが好まれます。多くの仕事を経験することで「仕事の幅を広げること」「新たな視点を養うこと」が理由としてあげられます。このような目的の場合、今後、多くの仕事を任せる可能性があることから昇進・昇格を含む「栄転による異動」が発令されます。

次に会社としてのマンネリ化を打破する定期的な異動もあげられます。このようなケースでは適材適所という視点によって人事異動が発令されます。異動を経験することで能力を開花するかも知れないといったポジティブな理由もあるでしょう。このような異動は配置転換や出向が多くなります。「経験を積ませる異動」として発令されます。

次に、会社としてのダウンサイジングのケースがあげられます。他の職位へ異動(多くは降格)させたり、配置転換や関連会社に転籍する人事異動です。または人員削減を計画する企業も存在するでしょう。意図的に悪い待遇の異動をさせて自己都合退職に追い込むという方法なども該当します。これは「左遷・リストラ」になります。

さて、この3パターンのなかで「経験を積ませる異動」に注目してみましょう。まず、日本企業において親会社から出向してきた社員と子会社の社員の待遇格差は歴然としています。特に、給料の高い中高年になるとその差はさらに拡大していきます。

しかし給料やポストなどの労働条件は不利益変更になり改定できないことが多いため、同じ役職においても子会社の社員よりはるかに高い給料を受け取ることが一般的です。これを「同一労働・同一賃金」にすることは実質不可能です。人事制度の根幹が崩壊するからです。

新聞社、テレビ、ラジオなどの主要メディアにおいて子会社への出向は日常的です。どのメディアにもキャリアの一つとして異動が存在します。しかし既に主要メディアの多くには「同一労働・同一賃金」が馴染まない人事制度が構築されていますから、積極的にこの話題について取り上げることが難しくなります。これが冒頭に説明した諸刃の剣になります。

●人事制度上の問題が生じる

会社内の仕事は、重要度や難易度、ボリュームなどによって異なります。特にホワイトカラーにおいては仕事の定量化・定性化が難しいことからその把握が困難になることがあります。

例えば、広報部長、財務部長、経営企画部長は同じ部長という役職であっても職務は異なります。重要度、達成度、難易度も異なりますから「同一労働・同一賃金」を導入することはできません。

職種を超えて職務の大きさを図るジョブサイズや、多くの日本企業が導入している職能資格制度があります。職能資格制度は等級が職務に設定されていることから、異動を通じてゼネラリストを育成してきた日本に適合しているともいわれています。しかし好き嫌いや抽象的な要素が排除できないことや、等級のアップに比例して人件費が高騰するなどの問題点も露呈しました。最近では、業績連動を導入するなど変化が見られます。

そもそも人事制度は「同一労働・同一賃金」を目的に設計されたものではありません。よって、制度上においても「同一労働・同一賃金」の実現は不可能ということになります。

●正社員の成立要件が異なる

正社員と非正規社員、派遣社員には様々な格差があります。収入面での不公平さを論じている人が多いですが、それは根本的に間違っています。正社員には日々の業務のみならず、歓送迎会やミーティング、タスクなど余計な業務が発生します。そして、業務命令には従う必要性があります。

正社員は幹部候補や管理職候補として採用されます。よって多くの「現場」を経験することになります。これが先ほど紹介した人事異動というものです。社員は原則的に辞令を拒否することはできません。また正社員は、企業や上司への忠誠心に基づいて行動することが要求されます、

しかし、非正規社員、派遣社員はそのような忠誠心に基づいて行動することや社内の理不尽さに耐えることは要求されません。立場が異なりますから正社員からすれば「同一労働・同一賃金」を主張することはナンセンスという主張になるはずです。

「同一労働・同一賃金」を実現するには、北欧諸国のように労組加入率を高める必要性がでてきます。日本の加入率が20%を切っているのに対して、北欧諸国は70%を超しています。労働市場のルールは労使協定で決定し、賃金格差を縮小する連帯賃金制度と呼ばれる労使協調型の賃金決定の仕組みも存在します。

労働者に職業訓練や職業紹介を行い、雇用主には労働者雇用に関する助成金を支給するなど、労働市場に働きかけをおこなう積極的労働市場政策(ALMP)も整っており各種セーフティーネットも充実しています。

しかし、日本において連帯賃金制度や積極的労働市場政策が拡充する可能性は低いことや、労組加入率も相まって「同一労働・同一賃金」を実現することは難しいのです。さらに、人事制度上の問題をクリアにすることができませんから、実現は実質不可能ということになります。

尾藤克之
経営コンサルタント

尾藤 克之
コラムニスト/経営コンサルタント

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