「人材流動化政策が日本に合わない」は朝日新聞の空論 --- 川崎 隆夫

2016年02月24日 06:00
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2月22日の朝日新聞デジタルに、「リストラを誘発しかねない再就職助成金支給要件、厳格化へ」というタイトルの記事が掲載されました。この記事の概要は、事業縮小や再編で離職を余儀なくされた人の再就職を支援する助成金について、厚生労働省は4月から支給要件を厳格化する方針を固めた、というものです、

この記事によると、再就職支援会社が企業にリストラ方法をアドバイスし、助成金が使われる退職者の再就職支援で利益を得る形となっており、労働者を守るためのお金が企業にリストラを誘発しかねない仕組みとなっている点を厚生労働省が問題視し、その是正を促すということです。

この点までは筆者も異論がないのですが、筆者が強い違和感を感じたのは、以下の「退職勧奨を助成金で国が後押ししているようなもの」といった小見出しで書かれているパラグラフについてです。

国学院大・本久洋一教授(労働法)の話:本来は規制すべき退職勧奨を助成金で国が後押ししているようなものだ。企業が社員の再就職を人材会社に丸投げし、助成金を支給する形では、人材会社が得をするだけ。助成金が何にどう使われているかを調べるモニタリングも不十分で、無責任な支援策と言わざるを得ない。

そもそも新卒一括採用や終身雇用が根強く残る日本で、人材の流動化を進める政策は合わないのではないか。外見だけ流動化を進めようとしても、流動化が進む欧米とは似て非なるものになるのは当然だ。<朝日新聞デジタル 2月22日>

日頃様々な企業の経営支援を行っている筆者からみると、上の記事は労働移動の現場を知らない評論家による、全く的外れな指摘であると言わざるをえません。コメントを寄せている大学教授が、中小企業を含めた日本企業全体の雇用流動化に関する実態や再就職支援会社のサービス内容について、どこまで理解されて話をしているのか疑問を感じますし、「日本では人材の流動化を進める政策は合わないのではないか」といった主張に至っては、なぜこのような結論を導き出しているのか、全く理解に苦しむところです。

■中小企業における雇用環境の実態
そもそも「新卒一括採用」や「終身雇用」といった制度は、日本企業約380万社のうち1%にも満たない大企業で、主に採用されている制度にすぎません。また中小企業で働く労働者の比率は全労働者の約70%に達し、その数も約3000万人にも上っている一方で、彼らの多くが大企業の労働者と違い、終身雇用という「恩恵」を受けられていない状況にあることも事実です。元々中小企業における人材採用は中途採用がメインですし、雇用についても中小企業では雇用の流動化が常態化し、終身雇用制が事実上形骸化しているからです。

中高年の労働移動に関する問題の本質は、一部の再就職支援会社によるリストラを誘発しかねない「過剰サービス」の提供を是正する点にあるのではなく、大企業の離職者と異なり、退職金も碌に支給されず、再就職支援サービスをも受けることができない環境の中で、再就職先を探すことを余儀なくされている中小企業等の離職者が多数存在する点にあります。この問題の解決のために創設された助成金が「労働移動支援助成金」であり、中小企業の労働者であっても、再就職支援会社の「求人企業の開拓サービス」等を受けやすくしようという趣旨で創設されたものです。

再就職支援会社が提供している主なサービスは、「転職先の開拓」です。欧米諸国と異なり、中高年層の転職市場が存在しない日本においては、離職者が自力で転職先を開拓することは極めて困難な状況があります。またハローワークも、離職者個々人のために転職先を開拓するほどの余裕はありません。このような現状により、再就職支援会社の「転職先開拓サービス」は、今や多くの離職者にとって欠かせないサービスになっているのです。

■助成金に関する正しい認知・理解の促進を
厚生労働省が、再就職支援会社各社の行き過ぎた営業活動や過剰サービスに対して、警鐘を鳴らすことは当然のことです。しかしながら、大学生が就活を行う際に、就活専用サイトを使わないと事実上就活が出来ない状況が存在するのと同様に、中高年層の離職者が再就職活動を行う際にも、再就職支援会社を活用しないと、志望する企業に再就職できる可能性が極めて低い状況にあることも、併せて認識しておく必要があります。

朝日新聞の「そもそも新卒一括採用や終身雇用が根強く残る日本で、人材の流動化を進める政策は合わないのではないか」などという「机上の空論」ともいわれかねない主張は、既に雇用が流動化してしまっている多くの中小企業の実態に、全くそぐわないものです。それよりも業績不振に陥っている中小企業等の経営者に対して、本助成金の存在や意義を広く知らしめ、離職者が少しでも転職しやすくなるよう、企業にその活用を促すことこそが、新聞の社会的使命ではないかと思います。

【参考記事】
■「一億総活躍社会」実現のための「中高年転職市場」
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-21.html
■「失業なき労働移動促進政策」がもたらす、日本型終身雇用制度の終焉
http://takaokawasaki.blog.fc2.com/blog-entry-17.html

株式会社デュアルイノベーション 代表取締役
経営コンサルタント 川崎隆夫 

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