次の選挙は自公政権と「民共勢力」の戦いになるそうだ。日本共産党が政治の表舞台に出てきたのは久しぶりだが、若い世代には「憲法を守るぶれない党」ぐらいに思われているのかも知れない。世界の共産党が何をしてきたかは、歴史の基礎知識として受け継ぐ必要がある。
本書は1997年に出版されて世界的なベストセラーになった大著(全5部)の改訳版だ。その内容は、次の数字に端的に示されている。
- ソ連:2000万人
- 中国:6500万人
- ベトナム:100万人
- 北朝鮮:200万人
- カンボジア:200万人
- 東欧:100万人
他にも数字が列挙されているが、これは各国の共産党が殺した人数である。日本共産党は大した組織ではなかったが、宮本顕治がスパイを殺した容疑で投獄された。合計すると世界の共産党が殺した人数は、控えめに見積もっても1億人を超え、第2次大戦の死者を上回る。
戦争で敵国の兵士を殺すのはわかるが、共産党が自国の国民をこれだけ大量に虐殺したのは、なぜだろうか。それは共産主義が、キリスト教やイスラム教と似た一神教だったためだ。しかもそれは、神を否定する一神教だった。
本来の一神教では、全知全能の神は地上にはいないので、人々を駆り立てるのは教義であり、その正統性をめぐって宗教戦争が続いた。しかし神を否定する共産主義では、共産党の指導者が神になる。最初は「書記長」という地味な肩書きで登場したスターリンは、政敵を粛清することによって地上の神になった。
しかも宗教戦争の場合は、互いに敵を「異端」と呼び、対等の立場で戦ったが、共産党は暴力装置を独占していたので、粛清される側は抵抗する武器をもっていなかった。それどころか、多くは自分が犯罪者とされていることも知らずに逮捕され、殺されたのだ。
このように国際共産主義運動のおかした犯罪は、ホロコーストで600万人を殺したナチスよりはるかに大規模だが、あまり糾弾されない。朝日新聞は3000万人を殺した文化大革命を賞賛し、200万人を殺したポルポトを「アジア的優しさ」と称えた。それは彼らにも共産主義への信仰が残っているからだ。
しかしさすがにこの凄惨な犯罪が明らかになったあとでは「共産主義」という言葉は使わず、「反原発」や「反安保」などのスローガンに形を変え、慰安婦問題などの「アジアへの戦争犯罪」を糾弾する。
共産主義も他の宗教と同じく、最初は理想として始まったが、理想が神として絶対化されると、それを疑う者を攻撃するするようになる。この「神」には何が入っても同じだ。キリストもレーニンも憲法第9条も絶対化したとき、他者への不寛容が生まれるのである。