消費税は財政危機の氷山の一角

筋書き通りクルーグマンも消費税の引き上げに反対し、自民党内でも増税先送り論が強まってきたようだが、率直にいって日本の財政は2%ぐらいの引き上げではどうにもならない。一般会計の政府債務1100兆円ばかりが話題になるが、もっと大きいのは社会保障特別会計の債務超過である。

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上の図は、厚労省の「100年安心プラン」の見通し(金利4.1%で賃上げ2.5%といった高度成長期のような数字で計算している)をゼロ金利で計算し直した鈴木亘氏の計算と比較したものだ。厚生年金だけでも2030年には積立が枯渇し、2100年には400兆円近い債務超過になる。年金会計全体では債務が950兆円あるのに対して積立は150兆円だから、800兆円の債務超過で、(財務省が管轄している)共済年金も含めると900兆円を超えるだろう。

この他に医療保険が380兆円、介護保険が230兆円の債務超過だから、社会保障全体で1500兆円以上の債務超過になっているというのが鈴木氏の推定で、これは他の経済学者もほとんど同じだ。つまり一般会計の赤字(純債務でみると700兆円程度)は、氷山の一角なのだ。

公共事業のような年度ごとの裁量的経費を削減するのは比較的容易で、2016年度の公共事業費は6兆円にすぎない。それをはるかに上回って増え続けているのが、社会保障の赤字を埋める社会保障関係費33兆円だ。社会保障給付のような定率のエンタイトルメント(経常的支出)が財政赤字の最大の原因だ、とハバードも指摘している。

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今のままでも図の内閣府の試算のように60歳を境に受益と負担が逆転しているが、増税を先送りすると格差はもっと拡大し、将来世代の消費税率は30%を超える。これは世代間のゼロサム・ゲームで、来年増税を延期したら、将来の負担が増えるだけだ。

受益世代の増税を先送りして負担世代の税負担を増やすことは不公正だが、政治的には合理的だ。前者の票が後者を上回るからである。しかし豊かな老人が貧しい孫から仕送りを受けるシステムが、いつまでもつのだろうか。このままでは将来世代はまじめに働く気をなくし、優秀な若者は日本を出て行くだろう。