TPPの承認案と関連法案の衆院特別委員会での審議が空転しました。民進党は、情報開示がないと十分な審議ができないとして、甘利明・前TPP相とフロマン米通商代表部代表の会談記録の提出を要求。政府は資料を提出しましたが全てが黒塗りされていたことから、この資料に対して民進党が不十分として反発したことに起因するものです。
●国会審議が難しい理由
さて民進党ですが、2012年、野田首相(当時)は「一般に、外交交渉において交渉相手国が非公開として提供する文書については、当該国の意向を尊重することは当然であると考えます」と述べています。外交交渉は国益を左右する情報なので開示できないことを暗に認めていることになります。
対して、安部首相も「外交交渉の経緯は相手国との信頼関係にかかわる話であり、一方的に公表すれば、その国との外交関係は傷つく」と指摘しています。
現状では、政府が情報を開示することは考えにくいでしょう。それでは情報が開示されたら審議は進むのでしょうか。開示するには前提条件を設定する必要性があります。所属議員全員に対する開示であれば、政党に対しての守秘義務契約締結が必要になります。一部の議員に対しての開示であれば当該議員に対しての守秘義務契約締結が必要になります。国益を左右し相手国との信頼関係に関わる重要な情報ですから当然といえます。
しかし守秘義務契約の締結によってTPPの審議自体ができなくなります。守秘義務に抵触する事案が一切審議できなくなるからです。
米国では民主党候補者も共和党候補者もTPPに批判的です。これは米国のメリットが少ないことを意味しています。クリントン氏はTPP反対を表明し、トランプ氏もTPPには署名せずに、北米自由貿易協定に関しメキシコ、カナダと再交渉を目指すことを示唆しています。実際に、医薬品などの分野においては日本のメリットが大きいともいわれています。このような実情を踏まえて国会審議が難しいと考えているのでしょうか。また所属議員のTPPに対する認識も一致していません。
●共産党の明確な戦略
いますべきことは、開示されない黒塗りの情報を追求することではありません。既にTPPは国会承認を要するのみであり条約内容のプロセスについて問う段階ではありません。
合意内容は既に公表されていますからそれに基づいて議論すればよい話です。また委員会が空転しても承認・非承認の判断は与党多数ですからほぼ間違いなく承認されます。野党には野党の役割があり争点をより明確する必要性があります。
この点、共産党のスタンスは明確です。志位委員長は次の衆議院選挙について、「安倍総理大臣が早期の解散・総選挙を行ったとしても攻勢的な対応ができるよう、小選挙区での選挙協力態勢を構築することが急務だ。野党共闘が本格的に図られれば多くの小選挙区で与野党が逆転し、情勢の大激変が生まれることは明らかだ」とし、夏の参議院選挙に関連して「比例代表で850万票以上を獲得して8議席を絶対に確保するとともに9議席目にも挑戦する」(NHK WEB)と述べています。
共産党の選挙協力は大きなインパクトです。従来、共産党は全選挙区に候補者を立ててきましたが、野党共闘を進めるために、1人区には候補者を擁立しない方針も打ち出しています。共産党は各選挙区に組織票を持つだけに、野党統一候補に追加されたら選挙情勢は変化する可能性があります。もはや、どちらの戦略が明確であるかはいうまでもありません。
尾藤克之
コラムニスト/経営コンサルタント。議員秘書、コンサルティング会社、IT系上場企業等の役員を経て現職。著書に『ドロのかぶり方』(マイナビ)『キーパーソンを味方につける技術』(ダイヤモンド社)など多数。
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