知財本部・次世代知財システム検討委員会@霞が関。AI論議の続き。佳境です。
事務局が整理したAI創作物の論点は、「現行制度のまま」vs「AI創作物を保護」。
後者の場合、1)著作権以外の新権利、2)創作物登録制、3)AI登録制の3例。
前回の議論を踏まえ、めっちゃ大胆な整理です。
AI登録制なんて、赤松さんの提案ですけど、AIに人格を認める制度ですよ!
しかしやはり議論は逆噴射。委員から意見が噴出しました。とりあえずぼくが引っかかって咄嗟にメモしたものを並べます。脳内変換してますので、正確なところは政府議事録で確認いただければと存じます。
瀬尾委員:これまでの知財は「人が作る」ことを前提にした制度だった。それが大崩れする。時代認識を整理することが重要。
福井委員:創作のあり方がどう変わるかを認識するにはAIの実態やビジネスモデルの把握が必要。その上で、自然権・人格権と投資インセンティブの2つの基本的考え方に基づき、何を守りどういう権利にするかが問われることになる。
柳川委員:人格ならぬ「AI格」の設定はまだ早かろう。また、AIに意思がなければインセンティブによる保護も不要となる。人間とAIとの関わりを場合分けして検討することが必要。
水越委員:他国の保護状況によっても日本の戦略は左右される。放置ないし保護のそれぞれに、メリットもデメリットもあるだろう。
上野委員:前回、赤松委員は、AIを登録するが収入は「P」のものという案を提示したが、AIの収入は文化予算に回すという案はどうか。
赤松委員:この場の目的が、文化発展か産業振興か、その方向を定めないと議論がまとまらないのでは。
福井委員:AI創作に人間が関与するほうがチャンスがある段階であれば現行制度のままでよいが、創作物が爆発的に増えるであろう「次世代」を今のうちに構想しておく必要がある。
喜連川委員:AIはなだらかに進化してきている。これに関する権利は広い世界観に立った整理が必要。
・・このあたりでもう座長=ぼくのキャパをあふれ、収束する気配がなくなってきました。しばしの議論を経て、次のように引き取りました。
事務局が論点整理したが、議論が引き戻されました。AIによる変化の時代認識についても意見が分かれます。実態やビジネスモデルも、5年後ないし2045年といったタイムスパンによって見え方が異なります。これは仕方のないこと。
今回の議論は、世界でも例のない挑戦であり、われわれに指針はありません。だが来るべき社会を空想し、制度論に落としこむ意義は共有されています。現行法体系を見直すこともあり得ます。ただ、議論はグルグル回りそうなので、どう落としこむか整理させていただきたい。
この日は「国境を超えるネット知財侵害」についても議論しました。AI空想論と対称的に、こちらは差し迫った課題。海外サーバの削除、リーチサイト対策、サイトブロッキング、啓発などどのような対策を講じるか。
CODA後藤専務理事によれば、侵害動画はこの3年で削除要請18.7万件、削除率98%。しかし侵害は巧妙で潜在的になっているそうです。侵害リーチサイトの違法化、サイトブロッキング運用、オンライン広告対策が提案されました。
瀬尾委員は、侵害対策と正規版コンテンツ流通促進の両方を進めるべきと説きます。海賊版を止めること自体が目的ではなく、コンテンツが流通し権利者がもうかるという全体図を描くことが大事だと。これはコンセンサスです。
福井委員:リーチサイト対策は重要だが、導入に当たっては「炎上」することも覚悟しなければならない。国内に効果はあっても海外の運用がポイントになる。
赤松委員:マガジンは水曜に正規版が出るが、その前の土曜に海賊版が出てしまう。これでは勝てない。だがそういう連中にも「愛」があるので、彼らと「手を組む」ことも考えてよい。
政策の遂行には「覚悟」が求められるということですね。制度化に当たっては、「炎上しても、やるべきことはやる。」という方針で臨むことになります。
議論は核心に触れます。
福井委員:正規版を流通促進するには権利処理の容易化が重要。ただ、広告なしの有料サービス「YouTube Red」は海賊版を排除する仕組みだが、プラットフォームの力がこの上なく強力になる。
柳川委員:国よりもプラットフォームのほうが執行力を持つという点がポイント。
喜連川委員:リーチサイトにリーチできるかどうかが重要であり、それをGoogleが執行すればよいが。
後藤専務:日本は法的根拠がないため、Googleは応じない。
「国会vsプラットフォーム」論に話が至りました。民間どうしのビジネスや利用の秩序を政府が裁くという次元を超えて、国より強大なパワーを持つ世界的な企業に個々の政府はどういうスタンスで臨むかが問われます。
次世代の制度論は、この議論が避けられません。EUや中国で、課税やセキュリティ、あるいは情報内容を巡り、国際プラットフォームと国家とのせめぎあいが見られますが、知財はどう対応すべきでしょう。悩ましい・・・。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年4月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。