日銀は4月22日に「金融システムレポート(2016年4月号)」を公表した。このなかで「マイナス金利付き量的・質的金融緩和と金融システム」との箇所を確認してみたい。
「マイナス金利付き量的・質的金融緩和の影響という観点から改めて整理すると、市場金利は長期ゾーンまでマイナス化するなど一段と低下し、預金・貸出金利も幅広く低下している。こうしたもとで、金融機関等に対して、貸出に対するより前向きな取り組みを含め、もう一段のポートフォリオ・リバランスを促す力が作用している。これらは、金融システムの機能度をより円滑化する方向での変化である。」
1月29日の金融政策決定会合で導入を決定した「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」であるが、その影響を一番大きく受けたのが当然ながら金利である。日銀の狙いもイールドカーブの一段の引き下げにあった。そこからどう物価上昇に波及するのかはさておき、金利は確かに低下した。ちょうど世界的にリスク回避の動きも強まっていただけに、10年を超える国債の利回りまでマイナスとなった。
しかし、すでに金利は歴史的水準にまで低下しており、10年債利回りまでマイナスとなったからといって貸し出しが急に伸びわけではない。ポートフォリオ・リバランスにしても、日銀は自ら大量に買い込んでいることもあり、最も巨大な金融商品でもある日本国債を買いづらくさせ、「安全」とされる国債からリスクの高い金融商品を買い込むように追い込んでいるのが、いわやるポートフォリオ・リバランスということになる。これらは、金融システムの機能度をより円滑化する方向での変化であるとは思えない。
「もっとも、効果の浸透を制約している要因も存在する。たとえば、幅広い主体が運用方針の見直しやシステムを含む実務対応を進めていく途上にあるなかで、取引見合わせの動きが幅広くみられるほか、投資家や法人がマイナス金利での取引を回避し、多額の資金が信託銀行や大手銀行等に滞留するなど、資金の流れの停滞を示す動きもみられる。また、本年入り後、国際金融資本市場の不安定な動きが続いたことが、株安・円高や外貨調達コストの上昇等に繋がっているほか、金融機関等のリスクテイクを一部抑制する方向に働いている。これらの要因が解消されていけば、政策効果がより浸透していくとみられる。」
「運用方針の見直しやシステムを含む実務対応を進めていく途上にあるなかで」という部分は、市場に事前に浸透させてマイナス金利の準備をする暇もなく決定されたマイナス金利により、慌ててその対応を迫られた金融機関の姿を示している。
「投資家や法人がマイナス金利での取引を回避し、多額の資金が信託銀行や大手銀行等に滞留」するなどしたことはある程度、想定内であったかもしれないが、これは金融機関のみならず法人企業や個人にもその費用負担が掛かる可能性を強めることになった。
国際金融資本市場の不安定な動きが続いたことが、そもそも1月に日銀が追加緩和を決定した理由であろうが、それで止めたかったのが円高株安であったとみられる。しかし、すでに市場は追加の金融緩和に対する感応度は変化しており、今回のリスク回避の動きの収束は原油価格の下落基調が収まるのを待つほかなかった。その間、外債投資など増やしたくてもリスクを取れる環境になかった。この不安定要因が後退したからといって、政策効果が浸透していくとは思えない。すでに金利は短期金融市場でマイナス1%にも低下していた。これは日銀トレードも影響しているが、これで何かしらの政策効果が出るとは思えない。
「金融機関収益に対しては、当面、一段の下押し圧力が働くが、金融機関は総じて充実した資本基盤を有するもとで前向きの信用仲介を継続していくとみられる。金融機関のポートフォリオ・リバランスが、経済・物価情勢の改善と結びついていけば、基礎的収益力の回復にもつながっていくと考えられる。」
金融機関にはマイナス金利による負担はこれまでの収益の積み重ねもあり耐えてほしいとの願いが込められているようだが、すでにメガバンクのトップからもマイナス金利政策に対しては批判的なコメントも出ている。金融機関のポートフォリオ・リバランスが、経済・物価情勢の改善と結びついていけばとあるが、リスク資産を増やすということは、株式市場が右肩上がりの環境であれば収益力が改善しようが、その分安定性・安全性を損なうことになりはしないのであろうか。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年4月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。