失注で良かった!豪州潜水艦 --- 山岡 鉄秀

豪州の次期潜水艦建造の入札で日本が落選し、豪州を拠点とする我々は胸を撫で下ろしている。我々は、豪州政府が国内製造にこだわりだしたころから反対に転じていた。日本政府は下記の事項を本当に認識しているのだろうか?

1.豪州は製造業に向かない国である

潜水艦の建造は主に南オーストラリア州のアデレードで行われる予定だという。アデレードといえば、かつてあの三菱自動車の工場があったが、大赤字を抱えたあげく、2008年に閉鎖している。三菱のみならず、フォード、GM、そしてトヨタも2017年までに現地生産から撤退する方針を明らかにしている。Toyota Motor Corporation Australiaの安田政秀社長が出した声明が印象的だった。

「われわれは事業変革のためにできる限りのことを行ったが、現実にはわれわれがコントロールできない要素があまりに多く、オーストラリアでの自動車生産は割に合わない」(ロイター 2014年2月10日)

ようするに、コストが非常に高いうえに、労組が強力で労務管理が大変すぎて、「やってられない」状況になってしまったのである。また、もともと細かい作業は不得手で、品質管理の意識も高くない。自動車が作れない国で、最新鋭の潜水艦をどうやって作れというのだろうか?

2.機密保持は困難

我々は昨年から警鐘を鳴らしていたが、北部準州のダーウイン港が中国企業に約450億円で99年間もリースされてしまった。このランドブリッジという中国企業は人民解放軍と繋がりが深く、私兵部隊(プライベートアーミー)まで持っているという。明らかに人民解放軍のフロント企業だ。そのような会社に、米海兵隊も駐留する安全保障の要衝であるダーウイン港をあっさりと明け渡してしまうのが豪州政府である。

今回の失注が表明される直前にもタンバル首相が大勢のビジネスマンを引きつれて中国詣でをしている。この期に及んでまだ中国マネーに媚び、自国の安全保障すら妥協してしまうのだ。中国側から強力な妨害工作があったことは間違いない。豪州側がそうりゅう型潜水艦の機密を中国側に漏らさないと信じるのは、韓国政府が自発的に大使館前の慰安婦像を撤去すると期待するぐらいナイーブである。

自動車も作れず、金で要衝をあっさり明け渡してしまう国で超ハイテクの潜水艦をまともに建造して、なおかつ機密漏えいを防ぐなぞ、限りなく不可能に近い、ということだ。

それにしても呆れたのは、採用されたフランスのバラクーダ型はもともと原子力潜水艦なので、通常動力に再設計しなくてはならず、その結果、動力部が3倍の大きさになってしまうということだ。それでは実際にどの程度の性能を発揮できるかわからないではないか。とてもじゃないが南シナ海の有事には間に合わないだろうし、抑止力にもならない公算が高い。「予定の2倍の時間をかけて作ってみたけど、期待したようにできませんでした」となる可能性が高いと言っておこう。

豪州政府が真剣に安全保障を考えるのであれば、日本から完成品を輸入するのが最も合理的だ。政治的妥協の結果、虻蜂取らずに陥る選択をしてしまった。それこそ中国の思う壺だ。

日本は豪州に期待せず、独自に海中での圧倒的優位性を維持強化する方が賢明だ。むしろ、三菱重工などの参画企業が十分なサイバーアタック対策を取れているかどうかを徹底的に確認すべきだ。「事業部単位で対応していた隙を破られてしまいました」などという言い訳は洒落にもならない。

Australia-Japan Community Network 代表