wikipediaより写真引用
支持率1位のトランプが予備選挙で勝つことは当然のことでしかない
共和党予備選挙からクルーズとケーシックの撤退が確定し、ドナルド・トランプ氏の指名が確実な情勢となりました。最近は日本国内でもトランプ指名獲得を受け入れる方向が出てきています。昨年段階で筆者が「トランプが勝つ」と発言するたびに、筆者が出会った米国通の国会議員や有識者の皆さんから「頭悪い子扱い」されてきましたが、実際にはどっちが馬鹿なのかがすっきりして良かったと思います。
何故、反イスラム発言でもトランプの支持率は落ちないのか(2015年12月11日)
米世論調査まとめサイトであるRealClearPolitics を見ても「トランプ氏は昨年度共和党内で支持率1位になってから1回しか支持率トップを譲り渡していない」のだから、トランプ氏が共和党予備選挙で勝つことは当然であり、全く驚くに値しない結果だと言えます。現在となっては「予備選挙でトランプが負ける」とメディアなどで喧伝してきた米国政治の専門家って何だったんだろうと思う次第です。
選挙情勢分析上はともかく、筆者は心情的にはクルーズを応援していため少々残念な結果ではありますが、共和党の予備選挙が終了したことを受けて、今回は大統領選挙本選について分析を述べたいと思います。
大統領選挙本選でトランプはヒラリーに勝利することになるだろう
米国大統領選挙に関心がある方は、取材不足のメディアやピント外れの有識者のコメントに毒され過ぎていて、「トランプVSヒラリーならヒラリーが勝つでしょう」という一般的な見解を持っているものと想定されます。
各種メディアを通じて上述の見解を持たされていることは恥じるべきことではなく、むしろ米国大統領選挙について積極的に情報を収集している証拠とも言えるでしょう。
しかし、残念ながら、ヒラリー・クリントンは大統領にはなる可能性は高くありません。むしろ、ドナルド・トランプ氏が大統領になる可能性は極めて高い状況となっています。
「ヒラリー・クリントンが大統領になる」という予測をしている有識者らは「麻雀で安全牌を切り続ける思考と同じ」で、「知識人の立場を守る自己保身で大統領選挙に関する見解を述べている」ので注意が必要です。
今後、日本国内ではヒラリーがトランプに勝つ、という誤った言説が氾濫することでしょうが、それらは11月の大統領選挙が終わる頃には全て間違いであったことが証明されると思います。なんせ、それらの言説を垂れ流している人は「トランプが予備選挙に勝つこと」を予想できた人は一人もいなかったからです。
「トランプがヒラリー・クリントンに勝つ」5つの理由とは・・・
現在、トランプVSヒラリーの世論調査結果は「ヒラリーがトランプに勝つ」という数字が出ています。(上述のRealClearPolitics参照)そのような前提がある中で、筆者があえてリスクを取ってトランプ氏がヒラリーに勝つと言える根拠は何でしょうか?以下、トランプ勝利の5つの理由を述べていきます。
(1)従来までのトランプ氏はあくまでも予備選挙を行ってきただけに過ぎない
ヒラリーは昨年から民主党側の指名確実であったため、最初から大統領本選モードで予備選挙を戦ってきました。したがって、ヒラリーの大統領選挙本選における伸びしろはほとんど残っていないと思われます。
一方、トランプ氏は名実ともに共和党予備選挙を戦ってきました。そのため、トランプ氏にとって同予備選挙中は中道寄りの発言を行うことは困難であり、左派・中道を含む米国全体の世論調査でヒラリーの支持率を下回る状況となっています。
しかし、そもそもトランプ氏自身は共和党内では左派に分類できるリベラルな候補者です。そのため、今後はトランプ氏も大統領本選に向けて中道寄りのイメージ戦略に切り替えることが予想されます。従来までのトランプ氏のイメージでヒラリーとの比較を行うことは、全く異なるレースをやっていた二人の人物を同じ尺度で比べるという過ちを犯していることになります。
差し当たって、共和党の主流派を取り込むこむことを念頭に副大統領候補者選びを適切に行うことで、従来までのトランプ氏のイメージが大きく変わることになるでしょう。
(2)トランプ氏に不足していた共和党の選挙リソースにアクセスできるようになる
共和党の予備選挙において、トランプ氏は徒手空拳によるメディア・コントロールのみで勝ち残りました。他候補者が選挙のための組織・ネットワークを十全に固めていた中でのトランプ勝利は快挙と言えるでしょう。
その上で、トランプ氏が共和党の指名を獲得するに至ったことで、彼は予備選挙段階では不十分であった選挙運動のための運動員などの足腰を手に入れることになります。つまり、トランプ氏の下に初めて真面に選挙を行うための体制が整備されることになるわけです。
そのため、今後は共和党から支援を受けつつ選挙戦を展開することになるため、極めて組織だった強力なキャンペーンが行われることが予想されます。既に組織フル回転で選挙戦に臨んでいるヒラリーやサンダースと比べて、トランプ氏は組織力の活用という面においても伸びしろがあるということができるでしょう。
(3)米国民主党内の分裂は極めて深刻な状況になっている
民主党内の反エスタブリッシュメント層であるサンダース支持者はヒラリーに対する強い嫌悪感を持っています。そして、ヒラリーにとってサンダースの存在は喉に刺さった魚の骨のような形になっています。
ヒラリーはサンダース支持層を取り込むため、予備選開始当初の大統領本選向けのイメージ戦略を微妙に修正し、米国内基準の左派寄りのスタンスを取るようになっています。元々過激な路線から徐々に態度を修正してきたトランプ氏とは逆の方向でヒラリーは選挙戦を展開している状況です。
現在、予備選挙の世論調査ではヒラリーとサンダースの支持率はヒラリーが微妙に優勢という状況です。そのため、ヒラリー氏が今後の予備選挙の過程で下手を打つと、米国民主党にとって最悪のシナリオとしてヒラリーとサンダースの両者が分裂して本選に出てくることも十分にあり得ます。(世論調査上、サンダースの方がトランプ氏に対してヒラリーよりも有利である、という数字が出ていることも背景にあります。)
ヒラリーはサンダースを取り込もうとすると中間層の票を失うことになり、中間層を取り込もうとすると反エスタブリッシュメント票の行方が怪しくなるというジレンマの中にいます。共和党以上に本当に分裂しているのは「民主党」なのです。トランプ陣営もヒラリー・サンダース両者の亀裂を利用して、サンダース支持者が大統領本選で「寝る」ように仕向けていくことでしょう。
サンダース氏は今後もギリギリまで予備選挙を継続するでしょうから、ヒラリーはトランプ氏と比べて極めて不利な状況で選挙戦を継続することになるでしょう。
ヒラリーは様々なスキャンダルを抱えていますが、最も深刻な問題はメール問題やベンガジの対応ではなく、彼女自身の健康問題です。トランプ陣営は既に昨年段階からヒラリーの健康問題を攻撃し始めており、大統領選挙本選も容赦なく同問題を選挙争点にすることが予測されます。
過去にヒラリーは公務の期間中に度々失神・転倒・会議キャンセルを繰り返しており、大統領の激務が務まるか疑問が投げかけられています。トランプ氏は昨年末自らの健康診断書を公開して壮健ぶりをアピールしていましたが、同行為は昨年予備選挙で優位に立った段階で対ヒラリーを意識した健康問題キャンペーンを始めようとしていた証左です。
ただし、トランプ氏は予備選挙初戦のアイオワ州を軽視したために同州でテッド・クルーズ氏に敗北したことで、しばらく共和党内の予備選挙に選挙リソースを拘束されることになってしまいました。
しかし、トランプ氏が共和党の指名を獲得したことで、同氏のキャンペーンはヒラリーにとって最も弁明が難しい健康問題に焦点を戻すものと思います。選挙は政策を選ぶわけではなく人物を選ぶものであり、その人物という商品の健康状態が怪しいという一点突破で、ヒラリーは米国という軍事国家の指導者として相応しくないというメッセージが浸透することが予想されます。
(5)ヒラリーがトランプ氏に反応することで両者は同じ土俵に乗ることになる
選挙戦の基本として、弱小な勢力が勝つためには有力な勢力に自らの名前を述べさせることが重要です。現段階で優勢であるヒラリーの口から「トランプ」という言葉が発せられる度にトランプ氏の支持率は上がっていくことになるでしょう。
トランプ氏にとっては本選に向けて大統領候補者として世論からの信任を得るため、ヒラリーと同じ選挙の土俵に乗ることが最初の作業ということになります。そのため、初期段階では徹底的にヒラリーを攻撃するとともに「ヒラリーは終わった人物である」というキャンペーンを行うことになります。前述の健康問題も含めて「ヒラリーは過去の人」という印象を有権者に植え付けようとするでしょう。
支持率で優位に立つヒラリーの選挙戦略としてはトランプ氏を無視し続けることが有効な戦略となります。共和党予備選挙で失脚した主流派のジェブ・ブッシュ氏やマルコ・ルビオ氏はいずれもトランプ氏の「口撃」に反応したことで支持を失っていきました。
ただし、ヒラリーはサンダースを事実上支援することになる今後のトランプの「口撃」に悩まされ続けることになるでしょう。そして、メディアから質問されるうちに共和党の候補者になったトランプ氏の発言に何らかの言及をせざるを得なくなるはずです。その結果として、トランプ氏のポジションが相対的に引きあがるとともにヒラリーのイメージは落ちていくことになるでしょう。
以上、トランプ勝利に関する純選挙的な5つの理由をピックアップしてみました。現状ではヒラリーの支持率がトランプ氏に対して優勢であるものの、トランプ氏には伸びしろが多く、逆にヒラリーは手詰まりの状況になっています。そのため、僅か数ポイント~10ポイント程度の差ならばトランプ氏はヒラリーを差し切る可能性が十分にあります。
ヒラリーが勝つためには、最近支持率が回復してきたオバマ大統領がサンダース支持層をうまく吸収してヒラリーの支援につなげることが必要です。果たして、オバマ大統領にそれだけのことを実行できる余力を残っているでしょうか。トランプ氏の共和党指名確実ということで、米国大統領選挙の行方はますます面白くなってきました。
渡瀬裕哉(ワタセユウヤ)
早稲田大学公共政策研究所地域主権研究センター招聘研究員
東京茶会(Tokyo Tea Party)事務局長、一般社団法人Japan Conservative Union 理事
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