歪みが見えてきた大企業経営

岡本 裕明

日本的経営といえばどの会社も同じような社員が同じような組織体で同じようなビジネスの進め方をしているというイメージが外から見た日本の会社です。いわゆる経営のハウツーものが広く浸透していることがあるのと給与形態、雇用形態が似ていることもあるかと思います。

そんな画一的な日本的大企業に若干、ほつれが見えてきた気がします。

今日の日経を見ているだけでも4つの大企業が頭痛を抱えています。ベネッセ、三菱自動車、トヨタ、セコムであります。

ベネッセはマクドナルドの経営で著名になった原田泳幸会長が経営不振の責任を取って辞任することになりました。14年7月に発生した顧客情報の漏えい問題は着任直後だった原田会長にとってはコントロール不能の事態でありました。が、その後、2年を経ても経営は回復するどころか下落に歯止めがかからなくなっています。

このケースでは教育に最も発言権があるお母さま方へ植え付けた不信感はそう簡単に取り除けないということをまざまざと見せつけたと思います。お母さまの井戸端会議は正に元祖SNSであります。そしてその伝播力と一旦信じたら修正困難であることを強く印象付けた気がします。

三菱自動車への不信感も相当高まっているようです。11日に開いた記者会見でとりあえず、三菱グループの力を借りないで自力で問題解決すると述べています。果たしてそんな簡単なもので収まるかどうか、個人的に非常に心配と思っていたら早朝に日産自動車による3割出資が発表されました。やはり相当不安感があった中での決断だったのでしょう。

先日東京にいた際に街中を三菱の車が走っているとチープなクルマに見えてしまったのは私だけでしょうか?ブランド力とはそのクルマのハンドルを握る人との一体感、信頼感であり命を預けるメカであります。今回の一件で「裏切られた」と思っている三菱のオーナーさんは多いと思います。

確かにこの問題は燃費が15%悪くなるだけという点でVWの様に排ガスをまき散らしたケースとは違います。が、差額を補てんするのは目先の問題解決でこれからどうブランドを建て直していくのか、と思うとぞっとするほどの茨の道のような気がします。益子会長が「社内は閉鎖的で、新しいことに挑戦しない風潮がある。」と会見で述べている点は私の知る限り、三菱グループに比較的共通する課題のような気がします。社内にのれんが沢山垂れ下がっていてのれんの向こうにある領域を犯さない独特の社風、そして自分の領域を守るために保守的行動しかとれなくなる体制は目に見えるようです。ゴーンさんに久々の破壊的改革をしてもらうのにはうってつけかもしれません。

ではトヨタ。17年3月の決算見通しで連結営業利益が衝撃的な4割減の1兆7000億円になると発表しました。豊田社長曰く、為替で下駄をはいていたから16年の利益は追い風参考記録、と割り切っています。ということはアベノミクスと異次元の金融緩和で引き出された円安はやはり賞味期限3年のボーナスだったのか、という理解になってしまいます。ちなみに同見通しの為替のベースは105円であります。

注目は同社長が記者会見で述べた「組織が拡大し、機能間の調整が増えるなか、意思決定の実行やスピードが落ちてきた」という発言であります。これは正に大企業病で踏み込めない社員が多くなってきたとも言えます。体質的には程度の差はあれど三菱自動車に似たところはあるでしょう。

セコムの突然の会長、社長の解職劇は後追い記事を待ちたいと思います。「現体制で社内の風通しが悪くなりコーポレートガバナンス(企業統治)上の問題が起きかねなかった」とし、指名報酬委員会が調整を図ったものの解決のめどが立たず会長、社長の解職という衝撃の対応となっています。これだけの情報では全く理解できないのですが、なにか裏事情はありそうです。明白なのは両トップの首を突然すげ替えなくてはならぬほどの組織牽引力への問題が生じていたというのはやはり大企業における病の一つでありましょう。

たった一日のニュースを見ているだけでも多くの方が知っている企業でこれだけの問題がでてくるということはこれは氷山の一角と考えて良いかと思います。

大企業の突然死とはコンプライアンスに負け、組織間の意思疎通がスムーズにいかなくなり、歪んだ競争意識から小さな社内不正が積み重なって大きなトラブルを起こす、ということでしょうか?経営のノウハウ本を読んでいると「強くたくましいマネージメントを」と述べ、あたかもそれが管理職の当たり前の業務規範のように書いてあります。が、世の中、石を投げれば管理職に当たると言われる中で強い意志と問題解決能力が皆に備わっているか、といえば極めて疑問であります。出来る人間はほんの1-2割であとはポジションが多いから管理職になっているようなものでしょう。

ちなみに大企業はなぜ子会社、関連会社が多いのかといえば本体に残す及第点が取れない人材を送り出すための「施設」であります。事業拡大とは体のいい表向きの話で実際には日本の人事制度、雇用管理上、どうしても必要な組織体であります。本来であれば頑張れば親会社に行ける、とならなければいけないのですが、日本の場合はさかさまで頑張らないと関連会社に出向になるという保守的思考回路を植え付ける原因はこのあたりにもありそうです。

ならば新入社員は全員子会社、関連会社からスタートして及第点を取った奴だけ親会社に上がれるとした方が組織活性化には刺激的だと思います。

いずれにせよ、日本の大企業病は早めに処置をしないと厄介なことになりそうな気がいたします。

今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 5月12日付より