財務省の個人向け国債の販売が順調なようである。4月募集(5月発行)の個人向け国債三本合計の募集額は2749億円と3月募集分の4003億円よりは減少したものの、2000億円を超える販売額を維持している。昨年11月募集(12月発行)の729億円に比べて、だいぶ回復しつつある。
なぜ個人向け国債の販売が回復してきたのかといえば、日銀のマイナス金利政策によるところが大きいといえる。すでに銀行の定期預金の金利よりも、個人向け国債の最低保証金利(プラス0.05%)の方が高い状況となっている。個人向け国債は1年間換金できないものの、国が発行しているものであり信用度は高い。さらに債券固有のリスクであるところの流動性リスクや価格変動リスクもないあたりがあらためて評価されたものとみられる。
この個人向け国債の今年のキャッチフレーズは、「安全第一 いまこそ コクサイ」である。これは見方によれば日銀の大胆で異次元な金融緩和のひとつのキャッチフレーズ「ポートフォリオリバランスの促進」と相反するものとも言えなくもない。
日銀は「安全」な国債を大量に買い占め、日銀以外の投資家の投資行動を安全な国債から他のリスクの高い商品に移行させようとしている。この施策は日銀ばかりでない。我々の大事な年金を預かり運用しているGPIFや、ほぼ国債で運用していたゆうちょ銀行なども同様である。
結果論として日銀のマイナス金利政策により、期間10年を越す国債の利回りがマイナスとなってしまっており、国債を買うと損失を発生してしまう事態になっており、投資家にとって安全性よりも少しでもプラスとなる金融商品に手を出さざるを得ない状況に陥ってしまっているのも事実である。しかし、これは政府の意向も含めて強制的に株や海外金融資産に日本の投資資金を振り向け、株高や円安を招くことも意識した政策ともいえる。
個人にとっても預貯金金利はほとんどゼロ%に近いものとなっている。かといって株などのリスク商品や、外国債に資金を振り向けたくも、そのリスクに見合ったリターンが得られるのかは不透明であろう。リスク資産についてはそのリスクをしっかり把握できない限りは手を出すべきものではないと私は考えている。たとえば為替動向にしてもプロですら先行きを見通せるわけではない。
だからこそ「安全第一 いまこそ コクサイ」となっているのかもしれない。ただし、個人向け国債についても一般の方にどれだけ理解されているのかは疑問である。たとえば10年変動タイプの販売額が一時期低迷していたことからも明らかである。これは期間が長い、いっこうに国債利回りが上がらないといった面もあろうが、利子の設定がやや難解であった面もあったかもしれない。
しかし、ここにきては10年変動の販売額が多くなっている。4月募集分も3年固定は302億円、5年固定は851億円に対して10年変動は1596億円となっている。これは私がこのコラムや新聞、雑誌などで個人向け国債の10年固定の良さをアピールしたから、と言いたいところであるが、そんなに影響力があるわけではないので、証券会社などで顧客に10年変動の持つ潜在的な魅力がアピールされてそれが理解されているのではなかろうか。
3年固定と5年固定の利子は3年間、5年間変わらないが、もし何かのきっかけで長期金利が上がり出すと10年変動の利子はそれに応じて増える仕組みとなっている。しかも、1年経過すると財務省が額面で買い取ってくれることは3年固定、5年固定と同じである。最低保障利子が今後も維持される限り、個人向け国債(特に10年変動)はいまこそ買いであると思う。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年5月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。