米中経済対話と英EU離脱を経て、中国の姿勢に変化?

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米中戦略経済対話(S&ED)終了から1週間後の6月14日、モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)は、中国本土で取引されている人民元建て株式(A株)のMSCI新興国株式指数の組み入れ先送りを決定したのはご周知の通りです。

中国にとって、今回の指数採用見送りは寝耳に水だったことでしょう。2015年にMSCIが年に一度行う査定で採用を見送った当時、中国証券監督管理委員会(CSRC)はMSCIと作業部会を設立しました。その上で1)のQFII制度の見直しについては、2月にQFIIの認可を受けた海外機関投資家の投資枠を10億ドルから50億ドルへ拡大。2)の資本移動の制限をめぐっては一部緩和し、QFIIの承認を得た海外投資家が中国株式市場から毎営業日、資金を出し入れできるようにしました。ただ、海外投資家が本国送金できる月毎の割合は投資額全体の20%に制限されたままです。

3)の株式売買取引停止の改善に対しては、5月に上海・深センの両証券取引所が企業の自主的な株式売買停止を制限する新たな規則を発表。企業の裁量を限定し売却禁止期間を従来の1年から3ヵ月(第三者割当増資の場合は1ヵ月)へ短縮しました。中国側の一連の努力を受け、ゴールドマン・サックスは採用の確率を「70%」と試算していましたっけ。

さらに中国は6月6~7日開催のS&EDで、米国に人民元適格外国機関投資家(RQFII、中国域外の人民元での中国証券投資を承認する制度)の投資枠付与を決定しました。その規模は2500億元(約4兆円)と、該当16ヵ国・地域中で香港に次ぐ高い水準。中国がRQFII付与の見返りにMSCIによる中国A株の新興国株式指数への組み入れを狙ったことは明らかで、UBSのアナリストは「明確な(採用要請への)サイン」と指摘していたものです。

(南沙諸島問題をめぐっては今回のS&ED共同文書から削除、双方が米国の新政権へ棚上げする思惑で一致したのでしょうか。)

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(出所:Reuters via WSJ

それでも、MSCIは再び採用先送りを決定しました。MSCIは中国A株の指数組み入れで向こう10年間に中国へ流入する海外資金を4000億ドルと試算していましたが、採用先送りで資金流入は当分見込めません。

振り返れば2015年、中国A株のMSCI新興国株式指数への採用見送りが中国株安の引き金を引き、同年8月に人民元の切り下げを余儀なくされました。現在に視点を戻すと、英国民投票で欧州連合(EU)離脱派が勝利し、金融市場が急変する状況。中国がどのように対応するかと思いきや、李克強首相の発言の裏で人民元の対ドル基準値を大幅に引き下げたのはお伝えした通りです。

G20杭州サミットを9月に控えるとはいえ、S&ED後のMSCIの決定で面目を潰された中国が行動しないとも限りません。MSCIの採用先送り決定直後、北京当局がアップルのiPhone6と6Plusの販売差し止めを発表したのも印象的でしたよね。上海やワシントンでの20ヵ国財務相・中央銀行総裁会議で競争的な通貨切り下げ回避で合意したものですが、BREXITを口実に人民銀行が預金準備率や利下げで対応しないとも限りません。イングランド銀行(BOE)が7月あるいは8月、もしくは両月で利下げに踏み切れば、口実もできますしね。

(カバー写真:Kat/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年6月28日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。