日本型「医薬分業」の黄昏

2016年07月03日 06:00

医薬分業(いやくぶんぎょう)とは、「病院の医師が処方箋を発行し、病院とは独立した薬局の薬剤師が調剤を行う」という制度である。昭和時代には「院内薬局による調剤」が主流だったが、「薬漬け診療」「病院ボロ儲けで医療費が高騰する」などと批判が高まった。厚労省も「院外薬局だと診療報酬加算」という制度で促進したので、現在では外来診療の処方箋のうち6~7割が院外薬局で調剤されている。また、薬局の数は増加する一方で、今やコンビニの総数よりも多いそうだ。

「薬剤師が対面で薬の説明をしてくれる」「複数の病院からもらった薬を、かかりつけ薬局で過剰投薬にならないようチェックする」といったメリットが公にはアピールされているが、「説明といってもパンフレットで十分」「病院だけでなく薬局にも行くのは二度手間」「特殊薬だと、常備されていない薬局がある」といったクレームも少なくない。という訳で、いわゆる「門前薬局」が発達した。病院の近所で開業し、特定の病院で発行された処方箋を中心に扱う、限りなく院内薬局に近い院外薬局である。しかしながら、あくまで「独立した薬局」なので、公道を隔てた別の建物や、同じビルならば一端外に出ないと入れない場所に設置しなければならない…厚労省の通達で指示されているからだ。そのため、病人や杖の老人がヨロヨロと回り道をしつつ、時には雨に打たれながら、病院から薬局に向かうのである。また、「病院長の三親等以内が開設した薬局は、院外薬局と認めない」という憲法違反のような通達もあるが、「医者の奥さんが調剤した薬なんて信用できない!」という患者には、私はいまだ出会ったことがない。

ならば「薬のインターネット通販は?」という根強い意見がある。「午前中に病院でもらった処方箋を、スマホのバーコードリーダーに読ませてAmazonに注文すれば、夜には最寄りコンビニや自宅マンションの宅配ボックスに薬が届く」といったシステムである。ネットで一元管理すれば薬歴や過剰投薬は一目瞭然だし、質問や説明はメールやSkypeを活用すればよい。実際、楽天の三木谷浩史氏などは2013年頃、かなり強力に「薬のインターネット販売」を政府に求めたが「薬剤師は五感で判断するので対面販売が必要、Skypeでは匂いが分からない」などと却下された。しかしながら、「代理人が病人の代わりに薬局に薬を取りに来る」のは許可されており、このケースでは顔色すら見ずに調剤することになり「代理人がありなら、ネットもありじゃないの?」という意見は今なお大きい。

関西医科大学総合医療センターは組織改編に伴い、院内処方中心に変更」というニュースが先週、小さく報じられた。「16年ほど続けたが、院外処方にはメリットを感じられなかった」と院長はインタビューに答えたが、私も同感だ。「診療報酬上のデメリットは承知の上、患者の利便性を向上させて集客することによって、総合的なサービス向上や報酬アップを目指す」という判断は、大学病院としては初めてとなる。おそらくは、同じ判断をする病院が増えるだろう。そして、院外処方が復権できる唯一の方法は、「薬のインターネット販売解禁」ではないかと思う。

フリーランス麻酔科医

1966年生まれ。フリーランス麻酔科医。地方の非医師家庭に生まれ、某国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、2012年から、「ドクターX~外科医・大門未知子~」「医師たちの恋愛事情」など医療ドラマの制作協力に携わる。近著に「フリーランス女医が教える 「名医」と「迷医」の見分け方」。

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筒井 冨美
フリーランス麻酔科医、医学博士

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