都知事の報酬カットは間違った選択

賃上げのアベノミクスにも逆行

間もなく都知事選の投票日です。小池百合子氏は早くから当確でしたね。小池氏を始め何人かの候補者が、知事報酬のカットを選挙公約の目玉に掲げていることを、私は残念に思ってきました。「半減する」と小池氏は言います。こんなもので有権者を釣ろうするのも間違いだし、自分は低報酬に見合った能力しかない候補者だと、言っているのと等しいのです。

自治体の首長、議員の報酬を抑制すれば、有権者に受けるでしょう。財政赤字で再建団体になっている自治体はともかく、適正な報酬を支払うことを認めていかないと、政治人材は政界に入ってきません。就職情報などをみていると、有能な若い人材は金融証券、商社、IT関係などに集中しています。政治人材の枯渇は国政においても広がっています。

第三者による報酬委員会を設け、妥当な報酬を決めるようにすべきです。家業の延長のような政治家、知名度が武器の政治家、消費者運動や市民運動の流れを汲んだ政治家ばかりが集まり、民間からすぐれた人材が政治に入ってこないと、結局、困ることになるのは国民であり、市民です。

低報酬は政治人材の枯渇を招く

知事、市長クラスの年間報酬は、ちょっとした民間企業なら執行役員や取締役のほうが多く、年収2、3000万円以上でしょう。トップが年収1億円以上の企業も急増しています。政界、自治体は利益や株価を競う場ではありません。だけれども公職者は低報酬でいいということではないと思います。一年あたり1000万円程度の退職金をもらっていることも多いようですから、それらを合算して、国会議員の報酬とも比較し、適正な報酬を考えることです。

自治体の財政状況が慢性的に悪いため、報酬の抑制を求めるのが世論になっています。選挙公約を読むたびに、これでは政治人材が逃避してしまうのではないかと、心配しています。せめて知事クラスの報酬は民間人からみて、もう少し魅力を感じさせることが必要ではないでしょうか。行政・組織・人員を効率化して、財源をひねりだすべきです。

もう一つの視点は、安倍首相のアベノミクス(経済政策)との関係です。安倍政権は財界、民間企業に給与引き上げを迫り、所得の増大が景気好転につながると強調してきました。小池氏らの公約はそれに逆行する安易な案です。報酬削減を契機にし、行政の効率化、組織全体の見直し、職員数と給与総額の削減を狙うという全体像があるならば、話は別です。

辞職した舛添氏は、公費を盛大に無駄遣いしました。お詫びのしるしに知事給与を減額するから、勘弁してくれ、でした。舛添氏の場合は、実費の返済みたいな申し出ですから、意味はあったでしょう。都知事の年間報酬は給与、ボーナス合わせて2300万円ほどですか。使い込んだわけでない知事の分を半額にしたところで、意味がありますかね。

報酬抑制より行政・組織の合理化が先

自治体の首長の報酬カットで評判になったのは、減税を重視した名古屋市長の河村氏でした。市長としては高額すぎる報酬2700万円を800万円に減額し、退職金もゼロしました。名古屋では市議の報酬も破格に高く、政治問題化していましたから、象徴的な意味はありました。大阪市では、橋下市長の時、2800万円を1700万円まで下げました。これを契機に市行政の合理化を進めるという決意表明みたいなものでしたか。

知事クラスをみると、千葉2400万円、神奈川2300万円などで、都知事の2300万円が特に高いということはいえないでしょう。注目されるのは、全国最低の奈良県で、特別条例で1400万円に抑えているのを本則の2100万円に戻したようですね。まともな措置です。都知事選では「半減」(小池氏)、「ゼロ」(上杉氏、赤坂氏)など、4、5人が報酬削減を公約しています。小池氏が当選して報酬を半分に、後の知事が元に戻したら、有権者の批判を受けかねません。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年7月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。